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【ジョギングは早死にするの?】医師が伝える、健康的に走り続けるために知っておいて欲しいこと

たくや/ランナー医師、ランナー、ランニングコーチ

アールビーズ社のランナー世論調査では、ランニングを始めたきっかけは「健康のため」がトップで53%、そしてランニングを続ける目的は「健康維持のため」が第二位で48%でした。海外においても、2019年に行われたPKOポズナンマラソンで行われたアンケートの文献では、走る目的の第二位が「健康のため」でした。

確かに歳を重ねても、速くて走り込んでいるランナーはとても健康的にみえます。そして実際にジョギングをすると長生きするという文献もあります。

運動しない人と比べた運動別の平均寿命の延長効果:Schnohr P et al.Mayo Clin Proc.2018より改
運動しない人と比べた運動別の平均寿命の延長効果:Schnohr P et al.Mayo Clin Proc.2018より改

これは「どのスポーツをする人が長生き?」の記事であげた表ですが、デンマークのコペンハーゲン市の心臓研究からで、1991年から2017年まで最大25年間追跡した調査です。個人競技に限ってみるとジョギングは、サイクリングや水泳と遜色がないことがわかります。

このように「ジョギングを日常的に行うと長生きする」という文献があるのですが、その走る速さや時間、頻度により死亡リスクが上がってしまうこともあります。

ジョギング習慣の違いによる死亡リスクの変化

ジョギングの量と長期死亡リスクの調査 : P.Schnohr et al.ACC.2015より改
ジョギングの量と長期死亡リスクの調査 : P.Schnohr et al.ACC.2015より改

上の表は同じコペンハーゲンの調査の文献からで、座っていることが多い運動習慣のない人とランナーを最長35年間追跡調査したものです。そしてその結果を、年齢や性別の他、喫煙・飲酒・学歴・糖尿病の有無で調整しています。結果をみるとジョギングの時間・頻度・速さ、いずれの項目もU字カーブを描いており、やり過ぎると死亡リスクが上昇しています。

さらに時間・頻度・強度を組み合わせて、軽いジョギング習慣・適度なジョギング習慣・激しいジョギング習慣でまとめて死亡リスクをみてみます。

軽い・適度・激しいジョギング習慣での死亡リスクの変化

ジョギングの量と長期死亡リスクの調査 : P.Schnohr et al.ACC.2015より改
ジョギングの量と長期死亡リスクの調査 : P.Schnohr et al.ACC.2015より改

ここではU字カーブではなく、Jカーブになりました。
週2-3回軽くジョギングすると死亡リスクが78%低下しますが、逆にランニングにのめり込んで速く・長く走るのは死亡リスクが97%上昇してしまいます。

この文献は少し古い2015年のものですが、その後これ以上の文献は見かけません。この文献に沿って考えるのであれば、ゆっくりと適度なジョギング習慣は死亡リスクを減らし、平均余命を延ばすことができます。ですが行き過ぎたランニング習慣は、その利益を損なうばかりでなく有害な可能性があります。

健康のためにジョギングを始める・続ける方は多いと思います。そして走り込んでいて速いランナーほど力強く・健康的にみえます。ですが死亡リスクを減らし余命を伸ばすことができるのは、走り込んだランナーではなくて適度にジョギングを楽しむランナーなんです。

理由については文献の中で、さらなる研究の必要があるとしながらも「激しいジョギング習慣が寿命に悪影響だったのは、大血管や心臓の血管(冠動脈)、心臓の筋肉が痛んでいく可能性がある」と述べています。長い間激しいジョギング習慣を続けていると、大動脈の硬化や冠動脈の石灰化がおこる可能性があることが知られています。また心臓の筋肉が損傷して線維化してくることがあります。それが心臓の機能の低下や不整脈の原因になる可能性があり、死亡リスクを上昇させるのでは?としています。

次回はこの心臓の筋肉の線維化・・・心筋線維症について書いてゆきます。

医師、ランナー、ランニングコーチ

41歳まで某大学病院の消化器肝臓内科で勤務、現在は都内の一般病院で内科医をしています。また、中学でランニングを始めて走歴は約40年、その経験を活かしてランニングステーションでコーチもしています。総合内科専門医・消化器病専門医・肝臓専門医・抗加齢医学会専門医、JMJA公認ランニングドクター他、資格は多数。フルマラソンの完走は67回でベストタイムは2時間50分31秒(2019湘南)。ランナーからよく聞かれることやランナーに伝えたい事を、科学的なエビデンスと経験をもとに記事を書いています。

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