Yahoo!ニュース

【英会話】年始に気を付けたい。外国人が不快に思う意外なことと、トラブル回避の一言とは?

英語雑学エッセイスト 徳田孝一郎英語・英会話研修スクール「英語・直観力」代表

 もう30年も前になってしまいましたが、東京の下町で働いていたことがあります。私立・国立向け進学塾で副教室長兼英語講師をやってたんです。下町だけに日本の典型的な文化が残ってましてね。そのあと、転職してNative English Speakerと付き合うようになるんですが、はっきりした対比が見えていろんなことに気づけました。今回はその中でも、日本では普通だけどNative English Speakerを怒らせかねないことに関するエッセイです。知っておくと年始のお出かけや新年会でNative English Speakerとの無用なトラブルを避けることができますよ。

小股の切れ上がったいい女

 30年前に下町で働いていたと話しましたが、そのころはわたしも20代で、よく仕事帰りに呑んでいました。私が誘うとなぜか大所帯になって結構な人数で呑むことになる。だいたい10人前後になるんですが、その中にカッコいい女性がいたんです。

 生まれは東京の松江あたりで、ちょっと男勝りの姉御肌、生徒のお母さんたちからの相談もうまく処理しちゃう。昔、ちょっとグレてたこともあったみたいで、塾の裏で高校生の女の子がタバコを吸っているのを見つけて、
「齋藤専務に見つからないようにしなよ。あいつ、融通が利かないから」
 なんて注意の仕方をする。そうすると不思議なもので、その子はタバコをやめてしまう。好きで吸っているわけではなかったんでしょうね。背伸びしたいだけだったんでしょう。判ってもらったと思えれば、タバコなんて必要なくなる。

 背もすらっとしてましてね、ああ、これが噂に聞く江戸っ子の「小股の切れ上がったいい女」というやつかぁとへんな江戸情緒を感じていました。

 で、呑み始めるんですが、これも豪快に呑む。ほかの女性陣がサワー、烏龍茶なんて言っている中ひとりで「熱燗ちょうだい!」なんて言ってくる。じゃ、おれもおれもと男性陣はお猪口をもらっていきなり熱燗で始まる。
 そのときも、決して手酌させないんです。なくなったなと見て取るとすぐにお酌してくれる。よく見てるんですね。たまに、すきを見て手酌しようものなら、
「あんた、あたしを気が利かない女にするつもり?」
 なんてかわいい絡み方をする。気を使っているんだけど、それを相手に負担に思わせない、押し付けがましさのないやさしさでした。

 私も若かったですからね。気持よく呑ませてもらっているから、自分の馬鹿話をしてしまう。
「この前新宿で呑んで終電で帰ったんだけど、乗り過ごしちゃってさ。ついたら全然知らない駅であたりは真っ暗。原野だよ原野。東京であやうく遭難しそうになった」
「遭難って! 原野って!」
「いや、ホント原野なんだよ。駅の外に出たら、あたり一面ススキが生えててさぁ。灯り一つ見えないの」
「ススキっ! どこに行ったらあるんだよ!」
 なんてこと言いながら、馬鹿笑いして、私の肩口をたたいてくる。こうなると、酒の席は基本何でも面白くなっちゃうんで、彼女、笑いながら周りの男性も女性もたたく。
 もちろん、たたくと言っても軽くです。しかも笑いながら、お酌しながら、しまいには面白さのあまり涙を流しながら、たたく。なんとも忙しくて愉しい女性でした。

 そういう吞みの場での愉しいやりとりを進学塾ではずっとしていたんですが、出版社の編集を挟んで、英会話スクールに転職したとき、ああ、あのやりとりは日本独特のものだったんだなぁ、と痛感したことがあります。

親愛の情でも

 ある年の新年ミーティングの時のことです。東京本部と大阪支社のスタッフが一堂に会して新人が自己紹介をしたんですが、そのとき、大阪の日本人スタッフが東京のNative English Speakerスタッフにツッコミを入れたんです。
「なんや、お前もデニスかいな」
 って、手の甲でNative English Speakerの胸のあたりを叩こうとした。たまたま、ふたりともデニスって呼ばれたんですね。なので、親愛の情を込めて手を出した。

 そしたら、大阪のデニスの手がパァァンって弾かれましてね。東京のデニスが真っ赤な顔をしてFワードを大坂のデニスに吐(は)きつけた。いつもは物静かな奴だったんで東京のスタッフもびっくり。あわててほかのNative English Speakerのスタッフが仲介に入って事なきを得ましたけど、こんなところに地雷があるのかと驚いた一件でした。

 あとで、友人のRichが説明してくれましたが、外国では相手を叩くことはもちろん、握手やハグ以外で物理的に触れることはご法度なのだそうです。決して親愛の情とは受け止められない。

 件の江戸っ子の彼女みたいなことしたら確実に喧嘩になる。残念ですが、ロンドンの下町では小股の切れ上がった忙しくて愉しい女性には出会えなさそうです。

年始は新年会が続くと思いますが、フィジカルコンタクトはご法度です。ご注意を。
年始は新年会が続くと思いますが、フィジカルコンタクトはご法度です。ご注意を。

 ただ残念がってもいられません。年始はみなさん初詣や初売りなんかで、お出かけになると思いますが、Native English Speakerの集団が電車のドアの傍にいたりして邪魔でも、決して押しのけるようにして乗り降りしないでください。デニスみたいにかなり怒りますし、万が一たちの悪いNative English Speakerだったりするとケンカになりかねません。

 でも、どうしても相手の躰に当たりそうなときはどうするか? そこで大切なのは言葉です。ほんの一言、

Can I get by? (横を通して)

 と言ってあげてください。Excuse me. と言って通してくれますよ。

 と、こんな感じで、Native English Speakerたちとの英語やカルチャーギャップのお話をご披露したいと思っております。お気に召しましたら是非ともごひいき(フォロー)くださいますようお願い申し上げます。

イラスト 大橋啓子

英語・英会話研修スクール「英語・直観力」代表

英語嫌いだったが、仕事で必要に迫られ日本語を英語にする方法で英文法をマスター。その実績を買われて英会話習得カリキュラムを作成するために英会話スクールに転職し活躍する。この時期に英文法をネタにした小説「英語の国の兵衛門」も上梓。その後Vice-presidentに就任。Native English Speakerのマネージメントを経験し、日本人とは違った価値観や思考法に振り回されるという経験を多々する。現在は独立し、英会話スキルだけではなく、Native English Speakerとうまく交渉できるスキル習得を目指した英語・英会話研修スクール「英語・直観力」を経営している。

英語雑学エッセイスト 徳田孝一郎の最近の記事