誕生直後の宇宙には「質量」が存在しなかった!?【ヒッグス機構】
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「生まれたばかりの宇宙には質量が存在しなかった?」というテーマで動画をお送りしていきます。
●真空とヒッグス場
質量とは何でしょうか?
質量はマクロなレベルでは重力の原因となります。ミクロなレベルでは素粒子の加速しにくさを意味します。
相対性理論によると質量はエネルギーと同じものです。
この世界にある様々な物質は質量を持っています。
物質を分解していくと最後には素粒子に行きつきます。
質量は素粒子の属性の一つです。
素粒子の種類によってその質量は異なります。
例えば、自然界の「弱い力」を伝える素粒子である「W粒子」は電子の約16万倍の質量を持ちます。
また、光の粒子である光子の質量は0です。
素粒子によって質量に違いがあるのはなぜでしょうか?
1964年、英国の物理学者ピーター・ヒッグス博士らは、この謎を解明するために画期的な説を提唱しました。
その仮説は「ヒッグス機構」といいます。
宇宙全体に「ヒッグス場」というものが広がっていて、それが物質に質量を与えているというのです。
なぜ、ヒッグス場があると物質に質量が生まれるのでしょうか?
例えば、パーティ会場に多くの人がいるとしましょう。
そこに有名人が入ってくるとサインを求めて人が群がるので動きにくくなります。
一方、普通の人の場合は誰も寄ってこないので自由に動けます。
ヒッグス場というのはこのパーティ会場のようなものです。
ヒッグス場と強く作用しあう素粒子は強い力をかけないと加速したり減速したりしません。
ヒッグス場をほとんど感知しない素粒子はほんの少しの力で加速したり減速したりします。
この宇宙全体に広がるヒッグス場がないとどうなるのでしょうか?
原子の中の電子が光速で飛び出してしまうため、原子が崩壊していまいます。
陽子が中性子に変化して、原子核もばらばらになります。
●ヒッグス場の急変が原子を生み出した
宇宙誕生直後には、ヒッグス場が機能していませんでした。
そのため、素粒子はヒッグス場の影響を受けることなく、あらゆる素粒子が自然界の最高速度である光速で飛び交っていました。
高温高圧の状態の宇宙が冷えていく中で、あるとき、ヒッグス場の状態が一変、さまざまな素粒子と相互作用を行うようになったのです。
このような状態の変化を「真空の相転移」と呼びます。
相転移とは水が液体から固体になるように環境によって状態が変わることをいいます。
相転移の後の宇宙では電子などの素粒子が質量を獲得しました。
宇宙誕生から38万年ほどたつと宇宙の膨張によりさらに温度が下がり、水素やヘリウムなどの原子が形成されるようになりました。
宇宙に原子が誕生したのは、さかのぼると、ヒッグス場の激変があったからだといえるでしょう。
●ヒッグス場の存在が実証された
それでは、ヒッグス場があることはどのようにして実証すれば良いのでしょうか?
それはヒッグス機構で存在が予想されている「ヒッグス粒子」を見つければ良いのです。
2012年、スイスのジュネーブにある「LHC(大型ハドロン衝突型加速器)」という巨大装置で新しい粒子が発見されました。
2013年、この粒子がヒッグス粒子と断定されたのです。
実験では加速器で陽子を光速近くまで加速し、陽子同士を正面衝突させました。
こうしてエネルギーを一点に集中させることで真空からヒッグス粒子を叩き出したのです。
量子力学では、素粒子は場の振動すなわち「波」として捉えることができます。
電磁場の波は電磁波であり、これは光子です。
ヒッグス場の波の粒子はヒッグス粒子として観測されます。
ヒッグス場を激しく振動させると、ヒッグス場に生じた「波」がエネルギーの集まりとして放出されます。
これがヒッグス粒子です。
1970年代に完成した素粒子物理学の標準理論では17種類の素粒子の存在が予言されていました。
その後、実験技術の進歩により、次々と実際に素粒子が発見されました。
2000年に、16種類目の「タウニュートリノ」という素粒子が発見され、残るは最後の17種類目である「ヒッグス粒子」だけになっていました。
ヒッグス粒子が見つかったことで最後のピースがそろい、素粒子の標準理論で予言されていた粒子がすべて発見されたのです。
しかし、素粒子によってそれぞれヒッグス場の感じ方が違う理由はまだ分かっていません。
標準理論では、物質粒子の質量が今の値である必然性は全くありません。
質量の値を変えても理論は破綻しません。
現在の理論によるとどんな値でも設定できてしまうのです。
将来的には素粒子の質量の値を導くもっと深い理論が発見されるかもしれません。
今後の研究に期待したいですね。