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近傍の宇宙で大発見!超巨大な「泡構造」の正体とは?

どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。

今回は「近傍の宇宙で未知の超巨大泡構造を新発見」というテーマで動画をお送りします。

●超巨大な泡構造を新発見

Crédits : Frédéric Durillon, Animea Studio ; Daniel Pomarède, IRFU, CEA Université Paris-Saclay.
Crédits : Frédéric Durillon, Animea Studio ; Daniel Pomarède, IRFU, CEA Université Paris-Saclay.

天文学者のチームは、広範囲に存在する5万6000個の銀河の高精度な分布図「Cosmicflows-4」から、直径10億光年にもなる未知の巨大泡構造を新たに発見し、その構造をハワイの神話にちなんで「ホオレイラナ」と命名しました。

ホオレイラナは多数の銀河が織りなす巨大な泡状の構造であり、泡の表面に当たる領域に銀河が高密度で分布しています。

泡構造は天の川銀河が含まれる超銀河団である「ラニアケア超銀河団」と隣接しており、泡の中心部は地球から8億2000万光年彼方にあります。

直径10億光年規模の構造にしては、地球に非常に近い位置での新発見と言えます。

さらにうしかい座超銀河団、うしかい座ボイド、スローングレートウォールなど、既知の著名な超巨大構造をいくつも内包していることも判明しています。

●ホオレイラナの起源

直径10億光年の巨大な球面に銀河が高密度で分布する「ホオレイラナ」という構造が、偶然形成された可能性は1%未満であるとのことです。

ではホオレイラナは、どのような現象が起源となって形成された構造なのでしょうか?

その起源は、バリオン音響振動(Baryon Acoustic Oscillations, BAO)であるという説が有力視されています。

BAOは少し難しい概念ですが、僕が理解できている範囲で何とか説明してみたいと思います。

○BAOについて

宇宙誕生直後、宇宙は非常に高温で、現在の地球上のほとんどの物質のように、電子と原子核が電気的に結びついて「原子」を形成することなく、独立して自由に行動していたと考えられています。

電子と原子核が分離している状態の物質を「プラズマ」といいます。宇宙誕生後しばらくは、宇宙にプラズマが満たされていました。

現在の宇宙では、物質同士は重力で引きあうのみで、高密度領域はより高密度になっていきます。

一方、初期の高温な宇宙においてプラズマ状態の物質同士には、重力的な引力だけでなく、放射圧による反発力も働いていました。

これは宇宙空間に存在する光(光子)が電子に対して相互作用し、圧力を与えることで、物質同士の距離間隔を遠ざけることによるものです。

地球上の空気を伝わる「音(音波)」は、空気を構成する分子を圧縮すると、分子の高密度領域と低密度領域が周囲に伝わっていく現象のことを指します。

空気で音波が伝わるのは、空気を圧縮すると反発力が働き、元に戻ろうとする性質を持つためです。

音波のように高密度領域(密)と低密度領域(疎)が伝播していく波は、「疎密波」とも呼ばれます。

初期宇宙を満たしていたプラズマと光子の複合体においても、重力による引力と光圧による反発力の相互作用により、最初期に高密度だった領域を中心として、その周囲の空間へ音波と同様の疎密波が伝わっていました。

これが「バリオン音響振動(BAO)」と呼ばれる現象です。

宇宙誕生から約38万年後、宇宙の温度が3000度程度になると、原子核と電子が電気的に結びつき、原子が形成されました。

光子は電子と衝突することなく直進できるようになり、視界が開けることから、この時期を「宇宙の晴れ上がり」と呼びます。

宇宙の晴れ上がり以降、プラズマ同士の反発力も失われ、BAOも消滅しました。

宇宙誕生直後から拡大し続け、宇宙が晴れ上がる瞬間に消滅した単一のBAOは、ある点を中心とした半径約5億光年の球面に存在していました。

宇宙の晴れ上がりの瞬間にBAOが消滅した場所では、物質が高密度で残り、その後重力的に引き合うことでさらに高密度となるため、恒星や銀河が誕生しやすい環境となります。

○銀河の分布にBAOの痕跡が?

BAO自体は現在の宇宙には残っていません。

しかしBAOが消滅した場所に銀河が多く形成されたため、「銀河の配置の仕方」にBAOの痕跡が残っている可能性があります。

消滅した瞬間のBAOの半径が約5億光年であるとすると、理論的には、無作為に銀河を2つ選び、その距離間隔を調べる作業を繰り返すと、約5億光年の距離間隔を持つ銀河のペアが少し多くなるはずです。

そしてこれまでの観測により、実際にそのようなデータが得られています。

これが現在観測可能なBAOの痕跡であり、それが実在していた証拠です。

新発見の巨大泡構造「ホオレイラナ」は、球面上に銀河が高密度に分布している構造です。

宇宙が晴れ上がる瞬間に消滅した単一のBAOは、ある点を中心とした半径約5億光年の球面に存在していたと考えられているため、ホオレイラナはまさにBAOの名残かもしれません。

これまでも銀河の距離間隔を調べ上げ、統計的にBAOの存在を浮き彫りにすることはできていましたが、仮にホオレイラナがBAOの痕跡であれば、視覚的に直接観測できるBAOの痕跡を見つけたのは初の事です。

しかし理論的なBAOの球面の大きさの予想よりも、ホオレイラナの方が10%ほど大きいそうなので、さらなる調査により、その部分の謎が解明されるのが期待されています。

ホオレイラナ
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/aceaf3
https://irfu.cea.fr/Phocea/Vie_des_labos/Ast/ast.php?t=fait_marquant&id_ast=5163
https://vimeo.com/814958164/37504df76e
バリオン音響振動
http://akari.c.u-tokyo.ac.jp/~doi/Astronomy/cosmology_text.html
https://svs.gsfc.nasa.gov/13768
https://www.nasa.gov/missions/roman-space-telescope/nasas-roman-space-telescope-to-uncover-echoes-of-the-universes-creation/
https://en.wikipedia.org/wiki/Baryon_acoustic_oscillations
https://honsuki.jp/pickup/10178/index.html

「宇宙ヤバイch」というYouTubeチャンネルで、宇宙分野の最新ニュースや雑学などを発信しているYouTuberです。好きな天体は海王星です。

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