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【池田市】大阪最古のうどん店『吾妻』 名物はあの〝文豪作品〟から?

秋月一葉Webライター(池田市)
名物「ささめうどん」の誕生秘話に迫ります。

 大阪の文化といえば、やはり「食」ですよね。今回は大阪最古ともされる池田市の老舗うどん店『吾妻(あづま)』さんにて、同店名物の細麺「ささめうどん」をいただくことに。

 こちらの看板メニューが生まれたきっかけは、とある地方名物の流行と、偶然訪れた文豪夫人との〝出会い〟がきっかけでした。

◆江戸末期から160年続く老舗

街中にひっそりとたたずむレトロなうどん屋さん

 阪急宝塚線「池田」駅から徒歩9分。栄町商店街の周辺をぶらついていると、昔懐かしの昭和レトロなうどん店を発見しました。のれんをくぐると出迎えてくれる風情ある店内、立ち込めてくるうどんの出汁の匂い。平成生まれの筆者ですが、祖母と過ごした幼き時代を思い出して、何だかノスタルジックな気持ちになってしまいました。

創業は1864年(元治元年)から

店内に飾られている絵画。改築前の店舗だそうです。
店内に飾られている絵画。改築前の店舗だそうです。

 その始まりは江戸時代末期。アメリカでは南北戦争、京都では池田屋事件に蛤御門の変と、約160年前は国内外共に激動の時代を迎えていたようです。そんな幕末に誕生した大阪最古のうどん店「吾妻」。

 ここ池田の地にて関西のだし文化を支え、歴史と共に歩みを進めてきた同店。名物は細麺の「ささめうどん」。考案された当初は「吾妻うどん」という名前で提供されていたそうですが、とある文豪作品から名前をいただくことになったのだとか。そのきっかけは女性客3人の来店だったようです。

お店の外に出されていた看板。変体仮名を交えて「かも(毛)な(奈)んば(者)」「玉子と(登)じ」と書かれています。店内の絵画をじっくり見てみると、この看板は当時入口に掲げられていたようですね。
お店の外に出されていた看板。変体仮名を交えて「かも(毛)な(奈)んば(者)」「玉子と(登)じ」と書かれています。店内の絵画をじっくり見てみると、この看板は当時入口に掲げられていたようですね。

この鏡は何かの贈り物だったのでしょうか。記載住所と店舗名で探してみましたが、現在はもう存在していないのか情報が出てきませんでした。4桁の電話番号に時代を感じます。
この鏡は何かの贈り物だったのでしょうか。記載住所と店舗名で探してみましたが、現在はもう存在していないのか情報が出てきませんでした。4桁の電話番号に時代を感じます。

◆そもそも「ささめうどん」とは?

大阪のうどん文化は〝ゆでおき〟が普通だった

 その前にまず「ささめうどん」とは、どのような細麺なのか。なぜこのスタイルで提供することになったのか。そしてその名前の由来は何なのか。今回はその経緯を知るべく、6代目の現店主・巽正博さんにお話を伺うことにしました。

 大阪のうどん店では〝ゆでおき〟が普通だったようです。あらかじめまとめて茹でておいた麺を、注文が入ったら熱湯にさらして用意する。来客の際に手早く提供するためのやり方ではありましたが、それではどうしてもコシがなくなり柔らかくなってしまいます。

讃岐うどんの流行に伴い、約50年前に考案された細麺タイプのうどん 

 そこで当時、5代目店主が「茹でたてのうどんを提供するために」考案して生まれたのが同店の「ささめうどん」。本来ならば茹で時間は20〜30分程必要ですが、細麺なので時間短縮が可能です。コシのある讃岐うどんが大阪に入り始めたのが1970年代初めの頃で、その流行に伴って、1970年代中頃に考案されたのが同商品だそうです。

 当初は「吾妻うどん」という名前でしたが、とある女性客の来訪をきっかけにして転機を迎えることに。

谷崎潤一郎の「細雪」が由来となった理由

 店内にある座敷を指差しながら「ちょうどあの席に座られていたそうです」と語る巽さん。ある日来店した3人の女性客と話していると、そのうちのお一人がなんとあの文豪・谷崎潤一郎のご夫人だったのだとか。

 どういうやりとりで名前を決めたのか、当時のエピソードについては巽さんご自身も詳細不明とのことですが、「ささめうどん」という名称はこの出来事に由来して決まったようですね。

細雪(ささめゆき)とは?

(1)こまかに降る雪。

(2)谷崎潤一郎による小説。昭和18年〜23年(1943〜48年)発表。戦中から戦後にわたって執筆された。没落した大阪の旧家を舞台に、美人4姉妹の日常生活の明暗を描く。

◆あんかけ仕立て、とろみの効いた「ささめうどん」

季節限定で冬は柚子が入ることも

「ささめうどん」と「かやくごはん(小)」
「ささめうどん」と「かやくごはん(小)」

 うどんの温かさにホッとさせられる、そんな寒い日でした。同店では「ささめうどん」以外のメニューでもこの特製の細麺を楽しむことができますが、今回は初訪問なので、まずはオリジナルメニューの「ささめうどん」を注文してみることに。

 少しとろみの効いたお出汁が、細麺に絡みます。こちらは昆布と鰹節などの削り節を使用した合わせ出汁だそうです。そして具材の内容は至ってシンプルです。油揚げ、かまぼこ、三つ葉、生姜、塩昆布などが入っています。12月から1月頃までの冬期限定で、手に入り次第、柚子の皮が入ることもあるのだとか。


ほんのりと感じる柚子の風味、合わせ出汁の風味豊かな味わいに、古き良き関西の冬を感じさせられました。

まとめ

 今回は大阪最古のうどん店とも言われる『吾妻』さんにて、独特の細麺「ささめうどん」のエピソードについてお話をお伺いしてきました。関西ならではのお出汁にあんかけ仕立てのお汁、たっぷりの具材に絡み合う細麺。

 だんだんと寒さは和らいできたものの、「花冷え」という言葉があるように、花が咲くような時期でも寒さがぶり返してしまうことがあります。夏場であっても身体の冷えには注意したいところですが、近年の夏はとてつもない猛暑ですので、汗を抑えたい時は同店で冷製「ささめうどん」を楽しむのもいいかもしれませんね。

 大阪府と兵庫県が隣接した土地にある池田市では、五月山や猪名川など緑豊かな自然と街が共生、阪神高速道路や中国自動車道といった複数の幹線道路が整備された交通の要衝でもあり、あらゆる〝出会い〟がある街です。

 文豪夫人との偶然の〝出会い〟から、名前の着想を得た「ささめうどん」。どんなやりとりで名前が決まったのか。その謎は今もなおベールに包まれたままですがなんだか想像力を掻き立てられます。同店で食事しながら、当時に想いを馳せてみるのも楽しいかもしれませんね。

【今回ご紹介したメニュー】

・ささめうどん(税込¥850)
・かやくごはん(小)(税込¥300)

店舗併設の駐車場もあります。
店舗併設の駐車場もあります。

【店舗情報】

・店名 
 吾妻(アヅマ)
・住所
〒563-0059 大阪府池田市西本町6−17(リンク先はGoogleマップへ)
 ※駐車場有(店舗併設3台)

・電話番号 072-751-3644
・営業時間 10:30〜16:00(L.O. 15:30)
・定休日 火曜日 (不定休日あり)​

・公式HP 吾妻うどん
・公式インスタグラム なし

(取材日:2024年2月8日/取材・執筆・撮影:秋月一葉)

Webライター(池田市)

自然とまちが上手く調和された池田市には、自然はもちろん、文化・歴史・グルメ・レジャーなど、たくさんの魅力が詰まっています。そんな池田市のイイトコロを、大阪出身の筆者が、京都で日本文化を学んでいた知識を活かしながら、【知られざる池田市の魅力】について多角的に発信していきます。

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