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美しい、数のかぞえ方

AZUSA日本語ジャーナリスト/講師/図書館司書/編集者

「二十歳」は「はたち」?「にじっさい」?

「今年二十歳を迎えた人たちの『二十歳のつどい』が各地で行われました……」十八歳が成人と変わってからは、「二十歳の成人式」もなくなりましたね。「成人式」が「つどい」に替わったのも何となく落ち着かないのですが、テレビのニュースで、「二十歳」を「にじっさい」と言っていたのが何となく気にかかりました。

2022年4月1日から、成年年齢が20歳から18歳に
2022年4月1日から、成年年齢が20歳から18歳に

「十九歳」を「じゅうきゅうさい」と呼ぶのですから、「二十歳」を「にじっさい」と呼ぶのはあたりまえ、という考えのようです。つまり、単に数の話なのです。

しかし、文学的な表現の場合、「にじっさい」っていかにも無粋。『二十歳の原点』は「はたちのげんてん」である必要があります!

高野悦子著『二十歳の原点』

「独りであること、未熟であること、これが私の二十歳の原点である」

                1971年新潮社刊

学生運動に身を投じ、実存と社会のはざまで悩み立命館大学在学中に命を絶った、高野悦子さんの日記の冒頭です。「ハ」「タ」「チ」という音感は、「にじっさい」のように、濁点や促音がなく、凛として歯切れよく、さわやか。いかにも青春の入口に立った女子大生が語るにふさわしい、音楽のようなひとことだと思うのです。

意外と知らない呼び方

では、「三十路」は? こちらは30代と誤解されがちですが、30歳の1年間のみを指しています。

 四十路……よそじ

 五十路……いそじ

 六十路……むそじ

 などとなっていて、いずれもそれぞれの一年間のみ。しかし、もっと幅広い年代を指せることばとして、アラフォー、アラフィフ、アラカンといった呼び方が登場してきました

これは年齢をストレートに言わないための策としてファッション誌が始めたらしいのですが、「さんじゅうだい」などと、濁点を使っていないので、「ハタチ」と並ぶほどではありませんが、やはり軽やか、さわやかさを感じます。

定着するかどうかは、意味がわかるかどうかも大切ですが、音感やリズムが重大な鍵を握っています。

お八つ(おやつ=ニ時~四時)、丑三つ時(夜中の二時)など、時の呼び方もいろいろ。日本語は本当に豊かです
お八つ(おやつ=ニ時~四時)、丑三つ時(夜中の二時)など、時の呼び方もいろいろ。日本語は本当に豊かです

日本語ジャーナリスト/講師/図書館司書/編集者

國學院大学卒。金田一春彦に師事。出版社勤務を経てフリー編集者、ライター、図書館司書に。文章講座レクチャーをきっかけに国語講師へ。国公立および私立中高で国語の授業も受け持つ。編著書に『なごみ歳時記』(永岡書店)、『校閲記者の目』(毎日新聞出版)他多数。『校閲記者の目』はプロが集まる現場、神保町の三省堂本店(現在改装中)でロングセラーとなった。 趣味は稲作文化のふるさと・中国雲南省への旅行と、仏教芸術の宝庫・敦煌シルクロードへの旅。金田一先生のあとをついで、失われつつある先住民族の辞書をつくりたいと思うこの頃。

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