Yahoo!ニュース

助けたいという思いはろう者も同じ ~ 聴覚障害者団体として全国初の災害ボランティア活動 ~

今村彩子映画監督

【ろう者のための災害ボランティアセンター】

 7月の西日本豪雨で甚大な被害を受けた広島。連日ニュースでその様子が報じられると広島県ろうあ連盟へ会員から「ボランティアをしたい」という声が寄せられました。4年前の安佐北区の土砂災害の時も力になりたいと思っていた会員もいたけれど、聴者(耳が聞こえる人)とのコミュニケーションが不安で活動を諦めたという過去があります。
 聴覚障害のある人は耳が聞こえないだけで体は元気です。同連盟はここでボランティアセンターを立ち上げて手話ができる人も集めて活動しようと豪雨1週間後の7月14日に設立、SNSや機関誌などで呼びかけるとセンターの想定以上に多くの人が集まりました。聴覚障害者団体が独自でボランティアセンターを立ち上げるのは全国初。志願した人たちはどのように活動したのでしょうか。前例のない取り組みで見えてきた課題とは何でしょうか。

【ろう者宅での作業】

 最初は土砂がなだれ込んだろう者の大島昭男さんの家(安芸郡坂町)で作業をしました。筆者が取材した8月4日に集まったのは1名の聴者を含む18名。約150cmの高さまで土砂で埋まっていた家は何日かにわたる懸命なかき出し作業で、この日には外壁の土砂がほぼ取り除かれていました。ボランティアは家族と一緒に室内になだれ込んだ土砂のかき出し作業に励みました。
 聴覚障害のある参加者に動機を聞くと「テレビで被害の大きさを知り、助けなければいけないという気持ちが自然に湧き出た」「4年前の土砂災害ではコミュニケーションの面で不安があり、遠慮したが、今回はろう者同士での取り組みということもあり安心して参加できた」と話してくれました。日々拡大していく被害に心を痛め、何とかしたいという思いにかられ、のべ5回も足を運んだ人もいれば、「広島にお世話になったから」と神戸や京都から駆けつけた人もいました。
 センター設立の7月14日から8月11日の間で13日間作業をし、のべ170人のボランティアが汗水を流しました。

【聞こえる人の家へもボランティアを派遣】

 大島さん宅の周りの家も土砂で埋まっていましたが、ボランティアの人手は足りない状況です。この地域は高齢化が進み、一人暮らしの人も少なくありません。
 炎天下の作業は過酷を極め、ボランティアの数が足りないことや被災した多くの聞こえる人も困っていることを知ったセンターは、地域の家へボランティアを提供するために坂町災害たすけあいセンターに団体登録をしました。9時から14時半までを作業時間とし、10分活動して10分休憩するというルールを守りながら、活動をしています。
 坂町社会福祉協議会の齊藤祐介さんは「人手不足なので、障害のある方も来てくださり、大変ありがたい。障害を理由に断ることはしないので来ていただきたい」と言います。
 地域で作業をした、坂折知則さん(ろう者)はご家族の方は手話ができる人に対応をお願いし、自分はそのご家族から指示を受けて作業をした。「オッケー?だめ?」と身振りでコミュニケーションをとることができ、ろうであることは問題ではなかったと話していました。

【新たな課題】

 一方、活動を続けると新たな課題が見えてきました。聴覚障害のある人は外見は健常者と変わらず、一見分かりません。作業先で休憩のためのテントを設営した時に、その土地の所有者とのやりとりがうまくいかずトラブルになったことがありました。先方もまさかろう者がボランティアをしているとも思っていないため誤解が深まったのでしょう。その場に手話ができる人がいなかったため、ろうボランティアはなぜ、自分が叱られているのか分かりませんでした。
 聞こえないことを最初から相手が知っていれば、お互いにコミュニケーションをスムーズに運ぶことができたのかもしれないと考えた広島県ろうあ連盟職員の横村恭子さんは、誤解をなくすために「聴覚障害のある支援者」とプリントしたビブスをボランティアに着用してもらうなどの工夫が必要だと話していました。

【今後は活動の幅を広げていく】

 「ボランティア活動をすることで初めて知ることがあります。テレビや新聞では報じられないところで助けを求めている人は多い。最初は市内で活動していたけれど、他の地域へも活動を広げたい」と横村さんは意欲を示していました。
 同連盟迫田和昭理事長は、「聞こえる方は最初はろう者が来たことに抵抗があったかもしれません。『ありがとう』『ご飯』『飲み物』などの手話を教えたら、興味を持ったようです。簡単な手話で心を通い合わせたことが一番大きなことだと思います。ろう者は助けてもらうばかりの立場ではありません。ボランティアセンターを運営する都道府県、市町村の社会福祉協議会も障害があるからと遠慮せず、聴覚障害者団体にも呼びかけて欲しいですね」と言います。

【助けたいという思いは同じ】

 東日本大震災、熊本震災など大きな災害に見舞われる度、聞こえる聞こえないに関わらず人々は力になりたいという気持ちを抱いてきます。しかし、多くの聞こえない人たちはコミュニケーションの面で不安がある、足を引っ張ってしまうのではと遠慮してきました。それでも、センターを立ち上げたのは、困っている人がいたら助けたいという思いは聞こえない人も同じだからです。
 広島県ろうあ連盟災害ボランティアセンターは、今後は県全域へと活動の幅を広げる予定です。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の動画企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】
※ この記事はYahoo!ニュース 個人で2018年8月23日に配信されたものです。

映画監督

映画監督/Studio AYA代表/名古屋出身/主な映画「珈琲とエンピツ」(2011年)、東日本大震災で被災した聞こえない人を取材した「架け橋 きこえなかった3.11」(2013年)、自転車ロードムービー「Start Line」 (2016年)、ろう・難聴LGBTを取材した教材DVD「11歳の君へ 〜いろんなカタチの好き〜」(2018年)文科省選定作品 がある。

今村彩子の最近の記事