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「LGBTは生産性がない」発言に潜む、他者と比べてしまう人間の性。そこから見えてきたものとは

今村彩子映画監督

 今年の夏、「新潮45」8月号に寄稿された杉田水脈議員の「LGBTは生産性がない」発言は様々なところで波紋を広げました。
 国会議員という立場でありながら「LGBは、嗜好のようなもの」(「新潮45」原文ママ) と間違った認識をし、「生産性」という言葉で人をはかる価値観を露呈したからです。それに対して抗議の声を上げたのは、LGBTの人達だけではありません。難病患者・障害者、そして、街の人々の思いを取材しました。

※ LGBT…Lesbian(女性同性愛者)、Gay(男性同性愛者)、Bisexual(両性愛者)、Transgender(体の性と心の性の不一致)の頭文字をとったもの。LGBTのうち「LGB」は『性的嗜好』ではなく正しくは『性的指向』であり自分の好みで選ぶことはできない(「LGBTってなんだろう?--からだの性・こころの性・好きになる性」合同出版より)

【LGBは性的指向であり、嗜好ではない】

 ここ数年、今まで見えないことにされていたLGBTがテレビや新聞で取り上げられる頻度は上がっています。電通ダイバーシティ・ラボの調査によると日本では13人のうち1人がLGBTと言われています。企業や学校ではLGBTの社員や児童生徒への理解普及、環境整備が進められています。
 このような社会の流れに対して、国会議員という立場にありながら、好きになる性の指向を「嗜好」と間違えて公言することは、LGBTへの差別意識を深めることにつながります。本来、国会議員ならば、率先してLGBTの人権を認め、社会の壁を見極めて取り除き、法や環境の整備を推し進めるべきではないでしょうか。

【抗議したのはLGBTの人達だけではない】

 障害者・難病患者の「生きてく会」は8月に都内で記者会見を開き、杉田議員の発言に対して抗議の声を上げました。「生産性がないLGBTに税金を投入することは果たしていいのかどうか」という考えは、一昨年の相模原障害者殺傷事件の植松被告の「日本には金がないのだから、社会の役に立たない心失者(障害者)を活かしておく余裕はない」という発言と同質であり、その根底には優生思想が流れています。そうした思想を肯定する人々がいることに彼らは危機感を募らせています。
 会見に出席した内山裕子さんは、ギラン・バレー症候群の後遺症があり、現在も薬による治療をしているため、子どもを産むことができません。記者会見では自身の経験を話し、重度の障害があるために子どもを産むことができない人など、多くの人が傷ついていることを伝えました。
 ALS患者である、JPA(日本難病・疾病団体協議会)の岡部宏生理事は、誰しも病気や障害をもつ可能性はあり、当事者の目線を持って今回の発言を捉えて欲しいと訴えました。
「生きてく会」は、社会的少数派への行政支援のあり方を議論する前に、まず共通の理解を深める場が必要だと考えています。10月半ばには与野党の国会議員、少数派当事者、支援者の間で「政治から差別発言をなくすために私たちができることは?」というテーマに意見交換を行う予定です。

【一般市民の声】

 杉田議員の「生産性がない」発言について街の人はどのように感じたのでしょうか。
 飲食店を経営する田島慶一さんは、「『生産性』は『作る』という意味だから、人に当てはまらない」と言い、人を機械のように「生産性」という軸で評価することに疑問を投げかけます。その上でサラリーマンだった時、周囲と比べる評価制度がストレスになり、うつ病になったことを打ち明け、人は人の上に立ちたい思いが根底にあると思うと評価社会への複雑な胸の内を話しました。

【評価社会から本来の「わたし」を取り戻すために】
 
 私が今回の取材で感じたのは、「生産性」で人をはかる発言の根底にあるのは、行き過ぎた評価社会の表れではないかということです。もちろん、人は誰もが認められたい、人の役に立ちたいという思いが大なり小なりあり、その感情は働きがい、生きがいに結びつく場合もあります。しかし、その度が過ぎると理想から遠ざかってしまった時、自分は価値がないと感じたり、追い込んだりすることになります。
 そして、その度が過ぎた思考が自己だけでなく他者との関係性に持ち込まれた時、高齢者、障害者など「弱者」とされている人達への差別意識や偏見、排除につながります。このような思想を内面化させると自分が「弱者」になった時に「私は役に立たない人間」という刃となり、今度は自分に向けてしまうのです。
 人は社会的な動物である以上、評価したり、されたりしながら生きていくことから逃れられません。だからこそ、自分の「ものさし」はどのように形作られているのかを見つめ、問い直し、語り直していく。この作業が誰もが生きやすい社会づくりへの一歩となるのではないでしょうか。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の動画企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】
※ この記事はYahoo!ニュース 個人で2018年10月9日に配信されたものです。

映画監督

映画監督/Studio AYA代表/名古屋出身/主な映画「珈琲とエンピツ」(2011年)、東日本大震災で被災した聞こえない人を取材した「架け橋 きこえなかった3.11」(2013年)、自転車ロードムービー「Start Line」 (2016年)、ろう・難聴LGBTを取材した教材DVD「11歳の君へ 〜いろんなカタチの好き〜」(2018年)文科省選定作品 がある。

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