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【福岡ラーメン最前線】味噌ラーメンの名店が打つ次なる一手が話題

上村敏行ラーメンライター

皆さん、啜ってますか? ラーメンライター上村です。今回は、4/26にオープンしたばかりの福岡の最新ラーメン店「はや川2nd」、そして昨今ラーメン業界のキーワードとなっている“非豚骨”についての話をします。

「はや川2nd」の醤油ラーメン(900円)
「はや川2nd」の醤油ラーメン(900円)

まず福岡のラーメン業界は、例年以上の豊作年となる勢いでオープンラッシュに沸いています。ここ1、2年県内にオープンしたラーメン店のジャンルをみると、いわゆる“非豚骨ラーメン”が豚骨ラーメンの新規出店数を上まわり、福岡ラーメンのボーダーレス化がますます加速している印象。

上村敏行。02年からラーメンライターとなり年間500杯を食しメディアで執筆。ラーメンライターとしての活躍はイギリス・ガーディアン紙、ドイツZDFでも紹介。「RAMEN WONK KYUSHU」主催。
上村敏行。02年からラーメンライターとなり年間500杯を食しメディアで執筆。ラーメンライターとしての活躍はイギリス・ガーディアン紙、ドイツZDFでも紹介。「RAMEN WONK KYUSHU」主催。

出店数は以前より減っているものの、今なおどっしりとした存在感を放つ“豚骨ラーメン”があってこその、この“非豚骨”(数年前までは“脱豚骨”とも呼ばれていました)という呼び名。実に、豚骨王国・福岡らしいラーメンのカテゴライズだと思っています。しかし一つ付け加えておきますと、“非豚骨”は塩、醤油、味噌、創作系など“豚骨ラーメンじゃないラーメン”を広く指している場合が多く、素材に豚骨を使っていないとは限りません。昨今は豚骨が入っている、入っていないに関係なく、あくまでジャンルとして“非豚骨”という表現が特にSNSでは使われていることをラーメン豆知識として覚えておいてください。非豚骨を単純に英訳すると「Ramen without pork bones」となってしまうため、ワールドワイドなラーメン人気でこの言葉が一人歩きすると、宗教的に豚を食べられない国の人に誤解を与えてしまうかもしれません。

「はや川2nd」は、西鉄井尻駅の近く、線路沿いにひっそりと立つ
「はや川2nd」は、西鉄井尻駅の近く、線路沿いにひっそりと立つ

さて、本題である福岡ラーメンのおすすめの新店情報に話を戻しましょう。主役は、2023年4/26に福岡市南区・井尻にオープンし、早くも人気店となっている「はや川 2nd」です。ちなみに先のカテゴライズでいうと“ジャンルとしての非豚骨”にあたります。

屋号に“2nd”とあるようにセカンドブランドとなる店ですが、まずは“1st”の話から。「はや川」と言えば「味噌ラーメンがうまい」。そして、もっと古くからのファンには「地鶏ラーメンが忘れられない」と、都市伝説的に語られる店です。

原点は2017年。初代店主の早川友彬さんが「地鶏らーめん はや川」の屋号で鮮烈デビューしました。当時、この「はや川」と「双鶏」(現:らぁ麺 なお人)、そして、2017年にワールドラーメングランプリで優勝した「大重食堂」の3店が、福岡においての非豚骨ブームの基盤を作ったのは間違いありません。しかし、人気絶頂を極めた「はや川」は、「いい地鶏が入らなくなり、納得のいくスープが取れなくなった」という理由から店を閉めることが多くなり、やがて早川さんが温めていたもうひとつのメニュー、味噌ラーメン専門店へと舵を切りました。その頃、経営を受け継いだのが、早川さんのラーメン職人としての才能に誰よりも惚れ込んでいた現店主の谷口しんさんです。「地鶏ラーメンが皆に強烈な印象を与えていただけに、それを封印することには不安はありましたが、共にブラッシュアップを重ねた味噌ラーメンにもそれを吹き飛ばすだけの魅力がありました」と振り返る谷口さん。

西鉄高宮駅近くにある「はや川 本店」で食べられる味噌ラーメン
西鉄高宮駅近くにある「はや川 本店」で食べられる味噌ラーメン

「はや川」の味噌ラーメンは中華鍋で“あおる”タイプではなく、スープに味噌を溶かし込む上品繊細味噌タイプ。味噌のみずみずしい風味と香り、合わせて入れる十数種の素材をブレンドしたスパイスが奥深いコクを生み出します。2種がのるチャーシューも超一級品。福岡には、例えば福岡市「川端どさんこ」や北九州市「麺屋 玄」のように、豚骨ラーメンではなく味噌ラーメンを地元のソウルフードまで昇華した店がありますが、「はや川」もそのような存在になることを期待させる一軒です。

レアチャーシューも食欲をそそる「はや川2nd」の塩ラーメン(900円)
レアチャーシューも食欲をそそる「はや川2nd」の塩ラーメン(900円)

そして谷口さんが満を辞して、セカンドブランドとして出したのが「はや川2nd」。4km弱しか離れていない本店との差別化を図り、メニューは塩、醤油ラーメンの2本柱に。あえて味噌ラーメンは出していません。

店主の谷口しんさん。 1979年福岡出身。脱サラ後飲食の道に入る。味噌ラーメン専門店としてリニューアルした「はや川」を2019年より経営。中国へのイベント出店など海外経験も豊富
店主の谷口しんさん。 1979年福岡出身。脱サラ後飲食の道に入る。味噌ラーメン専門店としてリニューアルした「はや川」を2019年より経営。中国へのイベント出店など海外経験も豊富

ベースのスープは、動物系清湯(ちんたん)に、大量の手羽先を“追い手羽”し、旨味を凝縮させたもの。醤油ラーメンには、前身の地鶏ラーメン時代にも使っていた島根県「森田醤油」、塩ラーメンには昆布、貝柱、魚醤などの旨味を詰めた塩ダレを合わせています。塩、醤油どちらのラーメンも食べましたが、“あっさり”の中で幾重にも広がる深いコクと旨味。素材を確かめるように次々にスープを飲み、レンゲですくう手が止まらなくなる。そんなタイプのラーメンです。ちなみに、醤油ラーメンの方は、かつての地鶏ラーメンと同じ醤油をベースにしていますが、また違った味わいの一杯に仕上げられています。

「はや川2nd」のスープは、“追い手羽”をほどこし肉系素材の旨味を凝縮させる
「はや川2nd」のスープは、“追い手羽”をほどこし肉系素材の旨味を凝縮させる

そのほか本店の味噌ラーメンは京都「麺屋棣鄂」の麺を使っている一方、2ndでは地元福岡「青木食産」の麺を採用。一般的なストレート麺と全粒粉麺の2種を用意しています。

本店と2ndは麺も異なる。写真は「青木食産」の全粒粉麺
本店と2ndは麺も異なる。写真は「青木食産」の全粒粉麺

「カウンター6席の小さな店。新しいラーメンを創作するラボ的な要素ももった2号店です。塩、醤油ラーメンを2本柱に、季節の限定麺なども出していきたい。ちょい飲みでも〆のラーメン利用でも気軽に利用してほしいですね」と谷口さん。前身の地鶏ラーメンから味噌ラーメン専門店へリニューアルし、ネクストは淡麗系の塩、醤油ラーメン。名店「はや川」の動きを受け、福岡非豚骨シーンはますますにぎわいをみせそうです。

【はや川2nd】
住所:福岡市南区井尻5-8-1
電話:070-9119-7474
時間:17:30〜21:00
休み:月、火、日
席数:6席
交通:西鉄井尻駅すぐ

ラーメンライター

1976年鹿児島市生まれ。2002年、福岡でライター業を開始。同年九州ウォーカーでの連載「バリうまっ!九州ラーメン最強列伝」を機にラーメンライターとして活躍。各媒体で数々のラーメンページを担当し、これまで1万杯以上完食。取材したラーメン店は3000軒を超える。ラーメン界の店主たちとも親交が深く、ラーメンウォーカー九州百麺人、久留米とんこつラーメン発祥80周年祭広報、福岡ラーメンショー広報、ソフトバンクホークスラーメン祭はじめ食イベント監修、NEXCO西日本グルメコンテストなど審査員も務めてきた。ラーメンライターとしての活躍はイギリス・ガーディアン紙、ドイツのテレビZDFでも紹介

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