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健康経営のススメ方。タバコの壁を乗り越える方法。

水野雅浩/健康マネジメント健康マネジメント専門家

こんにちは、健康マネジメントスクール、水野雅浩です。

『ビジネスパーソンの健康マネジメント』を中心に本の執筆、企業、行政、大学などで講師をしています。特に40代からは、仕事のパフォーマンスと健康度が比例する。ぜひフォローして、「攻めの健康マネジメント」にお役立てください。

【過去の記事】https://creators.yahoo.co.jp/mizunomasahirokenkom

■健康経営が進まない理由、第一位。

「健康経営」というキーワードを聞かない日がないほど新聞、ビジネス雑誌では、ホットなキーワードになっている。

少子高齢化に拍車がかかり採用が難しくなってきた中に、コロナが始まった。在宅ワークをしたもののメンタル不調をきたす従業員が出たと思えば、食事が偏り、急激に肥満になってしまった従業員もいる。そんな中、「働きながら健康になる」「職場で健康になる健康経営」がにわかに脚光を浴びてきた。

「健康経営」は、経済産業省が旗振りをし、「事業の継続的な発展のために、経営的な視点から、従業員の健康に関与する」というもの。この背景にある思想は、事業の要は、人である。しかし、人は歳を重ねるに連れて必ず健康リスクが増える。「従業員が健康でいることは当たり前ではない」継続的な事業発展のためには、雇用主の積極的な関与が必要である、という考え方がある。

もう少し柔らかい表現をするのであれば「健康で長く働ける職場づくり」になる。ポイントは、「職場で健康になる」ということだ。健康は自己管理とは理想だが、実際問題、人はそこまで意思が強くないから、健康行動を促す環境を作ることが肝なのだ。

私は、健康経営アドバイザーとして、様々な企業での健康経営の導入と定着をサポートしている。多くの企業を見ていると、人事が健康経営を進めようとしても、強烈な抵抗勢力に遭い、難航しているケースがある。要因は、さまざまあるが、今回は、代表的な事例として「タバコの壁」をご紹介したい。

■喫煙者の言い分、アレコレ。

私は、製薬会社や、健康食品、化粧品の上場企業も含めて、健康経営のサポートをしているが、健康や美をお客様に届ける企業でも社内の「タバコの壁」は存在する。厄介なのは、役員や管理者がタバコを吸っているケース。また、工場や支店を持つ企業では、本社から目が届かないこともあり、こっそりタバコを吸っていいたり。

こうしたケースは、人事がどれだけ一生懸命になっても、部下が白けてしまっていて、健康経営は進まない。では、タバコ擁護論者の言い分はどういったものだろうか。大きく3つに分けられる。

●個人の自由

タバコやお酒などの嗜好品は、あくまでも個人の自由。プライベートまで口を出されたくない。

●人に健康面で迷惑をかけていないのだから、いいではないか。

タバコが健康によくないのは、分かっている。 しかし他人の健康に迷惑をかけていないのだから問題ないのではないか。

●仕事はきっちりやっている

タバコは休憩時間に吸っている。仕事時間に吸っていないだから問題ない、というものだ。

タバコを吸っている人も、健康経営を推進している人事も概ね当てはまるのではないだろうか。上記に加えて、感情的な問題も絡む。今までタバコは問題なかったのに、なぜ、急に、鬼の首を取ったように、禁煙を叫び始めるのかと。

■タバコの健康被害、3つ目の落とし穴

経済産業省が推進する「健康経営」の分野には、食事の改善、運動促進、女性の健康、メンタルヘルスなどに加えて、禁煙サポートが入っている。

では、そもそも、なぜ、禁煙サポートが健康経営の中に入っているのだろうか。実は、タバコの健康被害が科学的に、新しく証明されてきた健康被害があげられる。

既に知っている「タバコの健康被害」で有名なものは、主流煙と副流煙だろう。主流煙は、細胞レベルで発がん性が確認されている物質が70種類以上も検出される。これは、肺がんだけではなく、口腔内に沈着した発がん物質は喉頭・咽頭がんの原因となり、嚥下されれば食道がんの原因にもなる。

そして、たばこを吸っている人が煙を吐き出した副流煙は、副流煙には主流煙の100倍以上も多く含まれる発がん物質まで存在するため、喫煙は周囲にいる、タバコを吸わない人たちの発がんリスクまで上昇させてしまう。多くの人は「煙は空気中で薄まるから、隣にいる私は大丈夫」と勘違いしていまうが、副流煙は100倍以上に薄まって、やっと吸っている人の煙(主流煙)と同じとなる。

とここまでは知識レベルの高低はあっても、既知の情報ではないだろうか。

実は、厄介なのが新しく解明された「サードハンドスモーク」だ。

これは、衣服やソファなどに付着した煙の成分(サードハンドスモーク:3次喫煙)でも人間の細胞のDNAが傷つくことが確認されている。ピンとこないかも知れないが、喫煙可能になっているカラオケやホテルの茶色いシミや、あの匂いがそうだ。そして、その衣服についた、有害物質が他人の健康被害を引き起こさないレベルに至るには最低でも40分以上時間が必要ということが分かっている。

つまり、「タバコを吸っていても、人に迷惑をかけていないから問題ない」「仕事の休憩時間に吸っているから問題ない」という主張は、企業内で仕事をしている限り、通用しないということが分かってくる。

■では、どうすればよいのだろうか。

とは言え、エビデンスだけでは、行動できないのが人間だ。では、どのように関与していけばよいのだろうか。

●会社の「姿勢」を明確にする

まず、企業のトップが企業の価値観や、姿勢を明確にする必要がある。今までは、お客様に対し、サービスの品質や安心安全などの姿勢を示していた。それと同じように、従業員に対しても、どのような人材を求めているのか、企業の姿勢を明確にするのだ。

健康経営を実践している企業では、採用のホームページをクリックすると、まず「喫煙者お断り」の文言が出てくる。企業姿勢を明確にすることは重要なのだ。

事業継続の根幹は、従業員。お客様に継続的に高品質なサービスを届けるには、健康で長く働ける従業員を一人でも多く増やすことが事業の成長につながる。そのための一歩として、健康を害することを減らしていこう。そして、次に、より健康になれる習慣を増やしていこう。この価値観に同意できない人は、いずれ事業成長の足を引っ張る人だ。会社の姿勢に沿わない人が去っていくことは仕方ない。

理念に合う人だけを集めていくと、腹をくくろう。

●サポートする姿勢を明確にする

喫煙者の中には、やめたい気持ちはあるが、やめられないという人もいるだろう。頭で分かっていても、止められないし、気持ちで、納得していても止められない。これがタバコだ。

タバコの中毒性の強さを理解した上で、卒煙しようとしている従業員には、企業としてもできる範囲で寄り添おう。

ある企業では、その月に卒煙する人は、周囲に宣言をする。そしてその人をタバコに誘うことはしないし、タバコを吸いそうになったら、ガムをあげる、声掛けをするなどしてサポートする。などしてイベント的に楽しく卒煙の雰囲気づくりをしている。

またある企業では、卒煙サポートとして、外部の有識者を呼んでセミナーをしたり、病院の卒煙外来の費用を一部負担するなどをしている。

●目標設定をしよう

企業として禁煙宣言をしても、いきなり明日からタバコをやめることはなかなかできない。だからこそ、いつまでに、喫煙者ゼロ人にする、という目標設定とスケジュールを作ろう。

多くの企業を見てきたが、現在の喫煙者数を把握した上で、大体3年計画で、喫煙者をゼロにする計画を作り、卒煙者支援している。

喫煙者もアタマではわかっている。段階を踏めば気持ちの整理をつけられるのだ。

■メッセージ

私は、15年ほど前、香港で仕事をしていた。そこで見たのは、健康経営を当たり前のように実践しているグローバル企業だった。

オフィスにジムが備わっているのは当たり前で、おやつには素焼きのナッツやグリーンスムージーが出てくる。メディテーションルームがあれば、肩こりや腰痛を防止するためのリクライニングチェアもあった。そこで働いている従業員たちにメタボサラリーマンはいなかった。

改めて、事業を発展させていく要は、人だ。

そして、人のエンジンは、心と体の健康だ。これからの時代、どれだけ「高く安定した」パフォーマンスを発揮するために、どれだけ心と体の応対を「高く保てるか」という戦いになってくる。

健康経営の推進は、タバコに限らず、様々な壁があるが推進する部署の担当者は、使命感をもって進めよう。あなたの所属する企業が将来にわたって成長し続けるかは、従業員の健康を担う、あなたの推進力にかかっているのだから。

■参考文献

<参考文献>
1) Mao L et al: J Natl Cancer Inst 89; 857-862, 1997.
2) IARC Monographs: Tobacco smoking, 43-44, 2012.
3) US Department of Health and Human Service. Cigar, 1998.
4) Hang B, et al : Mutagenesis. 2013 Jul;28(4):381-91.
5) Minami, J. et al. Hypertension 1999;33:586-590
6) Murakami Y et al: J Epidemiol 17; 31-37, 2007.
7) Brady AR et al: Circulation 110; 16-21, 2004.
8) Goldstein LB et al. Stroke. 2011 Feb;42(2):517-84
9) Nuorti JP et al: N Engl J Med ; 342:681-689, 2000.

健康マネジメントスクール

水野雅浩

【過去の記事】https://creators.yahoo.co.jp/mizunomasahirokenkom

【著書】https://amzn.to/3K6kVPh

■プロフィール
健康マネジメントスクール 水野雅浩

https://healthylifepj.com/

1975年生まれ 福岡県在住 予防医学の専門家。健康経営アドバイザー。講師・作家。『グローバルで勝つ!太らない疲れない7つの習慣』はAmazon総合ランキング1位。香港の勤務時代に、食事・睡眠・運動・ストレスケア・サプリメントに気を使い仕事のパフォーマンスを上げるビジネスパーソンを目の当たりにして、日本のメタボサラリーマンとの差に愕然とする。その後、某大手外資系企業のサプリメント商品開発責任者として10年歴任。しかし、サプリメント以前に、日本では健康習慣の基礎の啓蒙が必要と痛感。健康マネジメントの専門家として、企業・大学・行政で講師として啓蒙に力を入れている。

■講演実績
【企業】富士通株式会社、東レ株式会社、株式会社麻生グループ、株式会社中外製薬、アクサ生命保険株式会社、三菱商事株式会社、JR西日本グループ、株式会社大日本印刷、コカ・コーラボトリング株式会社、大塚製薬株式会社、ネスレ日本株式会社、Huawei Technologies Co., Ltd.北日本銀行、鳥取銀行、日本海新聞社、岩手日日新聞社、京都ホテルオークラ、とりねつ株式会社、ソルネット経営コンサルティング、税理士法人中央総合会計事務所、北斗工業エンジニアリング、一般社団法人日本パーソナルブランド協会、株式会社ホーマス・キリンヤ【労働組合】全トヨタ労働組合連合会(119社)、豊田自動織機労働組合 【行政】鳥取県、宮崎県、福岡県、岩手県など 【大学】台湾大学 【塾】公文など多数

■保有資格
日本成人予防協会一級健康管理指導員(認定番号H35366)/健康経営アドバイザー 認定番号3000092)東京商工会議所/健康マスター検定エキスパート・普及認定講師 認定番号E1400471/健康美容情報認定協議会 健康美容アドバイザー認定講師/日本ダイエット協会 ダイエットプロフェッショナルアドバイザー/JADP認定 生活習慣病予防アドバイザー/サプリメントアドバイザー(認定番号H35366)/米国NLPコーチング研究所 NLPプロフェッショナルコーチ

健康マネジメント専門家

健康マネジメントスクール代表。作家・講師。予防医学の専門家。健康経営アドバイザ-。『グローバルで勝つ!30代の太らない疲れない7つの習慣』はアマゾン総合1位。企業・行政・大学で「仕事のパフォーマンスを上げる健康マネジメント」、学習塾で「子供の成績を上げる食事・睡眠習慣」をテーマに講師。著書に『親子で作る健康習慣「本番力」で受験に勝つ』がある。中央大学法学部卒業後、介護サービスに携わり10年間、人の老化と向き合う。その後の香港勤務では海外のビジネスパーソンらが実践する健康投資を目の当たりにする。日本に帰国後、12年、外資系ヘルスケア企業で商品開発の責任者を担う。1975年生まれ。福岡在住。

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