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ハート型がかわいい!世界初の究極の抹茶茶碗!抹茶入りの釉薬を使った「抹茶による抹茶のためのお茶碗」

日本茶ナビゲーター Tomoko日本茶インストラクター

ハート形の抹茶茶碗をSNSで見かけるようになって数年。

実際に見てみたい!と「猪目(いのめ)茶碗」と名付けたハート型のお茶碗などたくさんの作品を生み出す作家、小野穣さんの個展に訪れました。

たくさんのキラキラした作品の中で目を引いたのは落ち着いた色合いの青磁のお茶碗。

青のような緑のような淡い色合いに魅了され、作家である小野さんにこのお茶碗について伺ってみたら、なんと抹茶を釉薬(ゆうやく)に使ったお茶碗だったのです!

抹茶を原料にお茶碗を作る?

抹茶入りの釉薬?

どういうことなのか、その魅力に迫ります!

抹茶を釉薬に?

宇治抹茶の老舗「山政小山園」さんの提案がきっかけ

実は私も抹茶を釉薬に使って作品を作っている方がいるというのは知っていました。

2年前に山政小山園の小山さんを取材しホンモノの「抹茶」とは?宇治の老舗の挑戦!究極の抹茶体験プロジェクト【ALL FOR ONE】に注目という記事を書くにあたり、抹茶の製造について伺う中で「抹茶でSDGsに関連するものは何かありますか?」と質問しました。

抹茶の粉末。これは飲用ですが、製造工程でどうしても出てしまう抹茶の粉塵は通常は廃棄となるそうです
抹茶の粉末。これは飲用ですが、製造工程でどうしても出てしまう抹茶の粉塵は通常は廃棄となるそうです

その質問に対して小山さんが

抹茶は加工の工程上、清掃や空調のフィルターにたまるなど、使えないものがでてきます。
その抹茶を集め、燃やして釉薬にすると、薄いブルーの焼き物がつくれます。
「抹茶でつくった抹茶椀で、抹茶を飲む」というテーマで、廃棄される抹茶を有効利用(再利用)しています。
 抹茶椀や複数人分点てられる注ぎ口付の片口茶碗など茶を楽しむ道具を捨てられてしまう抹茶でつくるというのは、色気があって個人的には気に入っています。
※詳しくは山政小山園さんのコラム「抹茶で創る、抹茶茶碗」(外部サイト)に掲載

とお話しくださいました。

抹茶を原料にした釉薬でお茶の道具を作るという斬新なアイディアにとても驚きました!

その頃は実際に実物を見る機会はなかったのですが、廃棄されるものを再利用して作るお茶碗にとても興味がわきました。

7年前に抹茶の釉薬で制作スタート

小山さんの提案で小野さんが最初に抹茶の釉薬でお茶碗を作ったのは7年ほど前だそうです。

2016年に阪急百貨店で開催された企画展「茶ガールの一日」に出展するために制作したのが初めとのこと。

山政小山園の小山さんとの雑談の中で「釉薬は何からできるんですか?」と聞かれ、「土と灰、1:1から生まれます」と答えたことから、抹茶からも釉薬ができるのなら試してもらいたいと依頼され制作がスタートしたそうです。

抹茶は茶葉ですから燃やして灰にするとほんの少しです。
テストピース程度に考えていたのですが、小山園さんから送っていただいた廃棄する予定の抹茶の量は釉薬を作るのに十分な量でした。
りんごの木や、みかんの木、樫の木、雑木などを使った釉薬がありますが「お抹茶(の茶葉)は聞いたことがない。何色ができるんだろう?」とワクワクしたのを覚えています。

しかし、普段使う釉薬とはきっと要領も違ってくると思います。

一番苦労した点はどんなところでしょうか?

釉薬は灰と土=1:1ですから混ぜる土を選ぶことを悩み、できるだけ綺麗な抹茶灰に化学反応で影響が出ないよう純粋な白土を探すのに苦労しました。

繊細な色を出すためのくふうがあるのですね。

そして1か月ほど試行錯誤して抹茶の釉薬が完成したそうです。

緑のような青のような美しい色

できあがったお茶碗は緑のような青のようなとてもきれいな色です。

抹茶の釉薬を使った青磁は素焼きした器に釉薬を一度かけて焼けば完成ではなく、釉薬をかけて焼くという作業を何度も繰り返すことで釉薬の部分が厚くなり、このようなきれいな色となめらかな手触りになるそうです。

また、釜で焼く温度や焼き方で微妙に色が変わるため、同じように焼いても作品によって少しずつ色が違うとのこと。それも魅力の一つです。

独特の美しい色。お茶碗の中にも外にも「飛びかんな」という技法で模様が入っています
独特の美しい色。お茶碗の中にも外にも「飛びかんな」という技法で模様が入っています

焼き上がっった後は、貫入(かんにゅう)という小さなひびのような模様が入り、一つ一つの作品の味わいとなっています。

全てが手作業のため大量には作れないもの、それぞれが唯一無二のものとなります。

写真ではわかりにくいですが全体に貫入(かんにゅう)が美しく入っています
写真ではわかりにくいですが全体に貫入(かんにゅう)が美しく入っています

一つ一つの作品を見て行くと繊細な仕事が感じられます。

実際に手に持ってみると、重すぎず軽すぎず大きさもちょうどよく、なめらかな手触りです。

高台(こうだい)という底の部分もちょうどいい高さがあり指がかけやすいので、扱いやすいです。

宇治の「辻喜」さんの抹茶(品種:あさひ)を薄茶で
宇治の「辻喜」さんの抹茶(品種:あさひ)を薄茶で

抹茶もたてやすく、淡い緑色の抹茶の色が馴染むお茶碗です。

抹茶を飲んでみると、お茶碗のふちもなめらかでとても飲みやすく、ふわっと薫る抹茶の香りと優しいうま味や甘味がしっかり感じられます。

抹茶入りの釉薬で作られたお茶碗で抹茶を飲む。

まさに「抹茶による抹茶のためのお茶碗(小野さん談)」です!

購入する場合は

小野さんの抹茶の釉薬を使った片口(かたくち)は東京の人形町にある山政小山園さんの抹茶カフェ「ATELIER MATCHA」でオリジナルのものが販売されているそうです。

抹茶を点てて注ぎ分けることができる器で、実用性も兼ねています。ただし、抹茶茶碗の販売はないそうです。※「ATELIER MATCHA」のサイト(外部サイト)

抹茶茶碗については小野穣さんのサイト(外部サイト)から購入が可能です。

実際に手に取って確かめたい方は、愛知県内の取り扱いのあるお店(東玉堂、妙香園 サンロード店、妙香園 サカエチカ店、うつわペルシュ)でご覧いただくか、時々個展も開催されているそうですので小野穣さんのインスタグラムでスケジュールをご確認ください。

小野穣さんの作品の魅力

ハート型のお茶碗「猪目(いのめ)茶碗」

愛知県瀬戸市の作家である小野穣さん。

代表的な作品はハート型のお茶碗「猪目茶碗」です。

個展も華やかなお茶碗を求めてたくさんの女性のお客様でにぎわっていました。

今回の伊勢丹新宿店での個展(2023年3月8日から14日まで)
今回の伊勢丹新宿店での個展(2023年3月8日から14日まで)

ハート型の猪目茶碗は8年ほど前に「女性が楽しめる抹茶茶碗を」と依頼され作り始めたそうです。

女性の手にも馴染むようやや小ぶりなものが多く、色もピンクや赤など明るい色の作品がメインだそう。

ぱっと目を引く明るい色の作品に吸い寄せられるように店内へ
ぱっと目を引く明るい色の作品に吸い寄せられるように店内へ

小野さんは「猪目茶碗」についてこのようにおっしゃっています。

猪目(ハート)型はユニバーサルデザインとしても有名ですが、日本では古くから猪の目と呼ばれ魔除や幸せを呼ぶ意匠とされてきました。
その猪目は現代でも主に神社やお寺、日本の伝統建築やお祝いごと、魔除け等様々なところに使用されています。
またハートの凹みは桃や女性のお尻をイメージするので安産祈願、幸福招来の意味にも使われていました。神社、鎧、刀の唾、茶道では茶室の窓としても存在します。
(中略)
猪目の意匠は仏教とともに日本に来たといわれています。
お釈迦さまは菩提樹の樹の下で悟りを開き、その菩提樹の葉はハート型。
猪目のかたちは『悟り』のかたちなのです。

私も猪目の形を神社仏閣やお茶室の意匠を見て、なぜここにハート型が?と思ったことがあります。

西洋でも日本でも縁起のいい形なのですね。

菩提樹は5種ほどありますが、葉がハート型をしているのはインド菩提樹とヨーロッパ菩提樹の2種
ヨーロッパ菩提樹の葉のハートはキリストの心臓(心)のイメージに、またイコンなどの装飾に使われ、現代ではヨーロッパ菩提樹の木の下で愛を告白すると成就するといういわれています。
中国のお寺などに猪目(ハート)の意匠が見られないことから、日本の仏教はインドからダイレクトに海を渡って日本にやってきたようです。猪目の意匠は正倉院の収蔵品にも存在します

ハート型が菩提樹の葉に関係しているとは知りませんでした。

とても興味深く勉強になります。

猪目デザインの始まりは諸説ありますが、正しくは猪が正面から敵を打ち払うとされることから、両の目を中心で合わせたものだと思われます。

「猪突猛進」のイノシシの目とハート型が結び付かなかったのですが、なるほど納得!

ハート型の抹茶茶碗『猪目茶碗』
優しい形で人々の心を癒す 
そんな茶道具の一つとなるよう作り続けたいと思います。

すてきなお考えですね。

小野穣さん(2023年3月伊勢丹新宿店の個展にて)
小野穣さん(2023年3月伊勢丹新宿店の個展にて)

小野さんの作品は見るたびに気持ちが晴れやかに楽しくなるようなものばかりです。

作家さんというとちょっと近寄りがたいというか話しかけにくいイメージを勝手に持っていましたが、小野さんは物腰柔らかでお話ししやすく、優しいお人柄が作品にも表れていると感じました。

作品を実際に手に取って間近で見られ、作家である小野さんから直接お話が伺える個展はとても貴重な機会でした。

バラエティー豊かな作品

小野穣さんといえば猪目茶碗、というイメージですが、お茶碗の形は様々あります。

抹茶の釉薬のお茶碗の他にもいろいろなスタイルで展開されています。

鮮やかなブルーの作品も。中央とその右は抹茶の釉薬のもの。
鮮やかなブルーの作品も。中央とその右は抹茶の釉薬のもの。

ブラックもあります
ブラックもあります

いろいろな色、大きさも少しずつ違うので、好みの物が見つかりそうです。

渋い色の猪目茶碗もあります
渋い色の猪目茶碗もあります

濃い色から淡い色、暖色から寒色と実にバラエティー豊かです。

色合いとデザインの多様性

小野さんは、猪目茶碗を作るまではオブジェや見た目の技法に凝った作品を作ることが多かったそうです。

立体的なバラの花や星など、キラキラした装飾のものもたくさんあります。

「星の王子さま」をテーマにした作品。ふたに薔薇の装飾のあるのはなんと茶道で使われる「水差し」
「星の王子さま」をテーマにした作品。ふたに薔薇の装飾のあるのはなんと茶道で使われる「水差し」

濃いピンク色の作品。色糸を使った茶せんは奈良の谷村丹後氏による高山茶せん
濃いピンク色の作品。色糸を使った茶せんは奈良の谷村丹後氏による高山茶せん

どの作品にもストーリーがあり、まるで「おとぎの国」のようです。

お話しを伺っていると時間が経つのはあっという間でした。

最近の人気作の一つは蝶をモチーフにしたもの。金色で描かれた模様にもハートが
最近の人気作の一つは蝶をモチーフにしたもの。金色で描かれた模様にもハートが

現在は「茶碗を一つの彫刻や宝石」として愛されながら使うことを楽しんでいただける新作を試作中だそうで、今後の作品にも目が離せません。

お近くで展示会や個展がある際は、ぜひ足を運んでみてください。

小野穣(オノ ユタカ)さんプロフィール

1968年福岡県生まれ。
名古屋芸術大学彫刻科で造形を学び、セラミック科研究生にて陶芸を学ぶ。
愛知県小牧市メナード美術館学芸員を経て瀬戸市に築窯。
主にヨーロッパ、海外での個展、ティーセレモニー等多数出品。
世界共通のシンボルをデザインした猪目茶碗を考案。鋭意制作中。
銀座三越、日本橋三越、横浜高島屋、伊勢丹新宿、阪急うめだ本店などで個展企画展開催。

2020年4月 青林工芸舎アックスにて「野点の茶世子ちゃん」漫画原作を担当。年1〜2話ペースで連載中。
2022年GW 阪急メンズ東京にて企画展「暮らしで楽しむ茶の湯 展」参加。
2022年10月 名古屋タカシマヤで個展。
2023年3月 伊勢丹新宿で個展、有楽町阪急メンズ東京で茶箱展。

【3月22日から28日まで阪急メンズ館東京で「水円舎企画 暮らしで楽しむ茶の湯展2023」】
小野穣さんの作品は、2023年は3月22日から28日まで有楽町の「阪急メンズ館東京」でも見ることができます(抹茶の釉薬のお茶碗の展示はないそうです)。
水円舎企画 暮らしで楽しむ茶の湯の展示はな展2023」という展示の中の一つです。
こちらは新進気鋭の作家の作品が並び、小野さんの作品もこちらのテーマでは「限りなく彫刻に近い茶碗」を展示されるそう。
伊勢丹での個展とはガラリと違った落ち着いた意匠の男性にも女性にも楽しんでいただけるものが多いようです。
詳細はこちら「水円舎企画 暮らしで楽しむ茶の湯展2023」(外部サイト)をご覧ください。

日本茶インストラクター

【お茶の世界の扉を開く日本茶ナビゲーター】 日本茶専門店で7年勤務、茶道歴25年の経験を活かし、大手百貨店や外国の大学等でのワークショップで国内外2,000名以上の方に日本茶の魅力を伝える。美味しい日本茶とそれにまつわる伝統工芸品を後世にも繋いでいきたい、日本茶への愛と想いで日本茶情報を発信中。日本茶の商品開発やカフェ・飲食店での日本茶コーディネートや淹れ方指導。NPO法人日本茶インストラクター協会認定日本茶インストラクター(2004年取得)。

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