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東京大会より厳格「管理」 コロナ禍2度目の五輪、北京の選手村は

竹内亮

ドキュメンタリー監督 番組プロデューサー(株)ワノユメ代表

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東京オリンピック・パラリンピックに続きコロナ禍での開催となる2022年2月の北京冬季五輪。1月15日に北京市内でオミクロン株への感染者が確認されたことを受け、市は16日に新たな感染予防対策を発表した。これまで市内に入るには48時間以内の事前のPCR 検査と陰性証明を求められたが、それに加え到着後も72時間以内にPCR検査を再び受けなければならなくなった。

北京五輪は選手や大会関係者を外界と隔離する「バブル方式」を採用しているが、東京大会よりも厳格化を進めて「閉環(クローズド・ループ)管理」方式と呼んでいる。東京ではバブル外のコンビニで買い物する関係者の姿が報じられたが、北京では選手や大会関係者だけでなく、報道関係者も中国を離れるまでクローズド・ループから出ることはできない。また、ボランティアらも一度クローズド・ループ内に入ってしまったら、仕事を終えるまで自由に外と行き来することは許されない。
北京大会は市内と郊外の延慶、隣接する河北省張家口市の3カ所が会場だ。私は市内の選手村で、海外選手への「おもてなし」の舞台となる現場を取材した。

●オミクロン株に苦戦も「ゼロコロナ」は不変

2019年末の新型コロナウイルス発生から、一貫して厳しい感染防止対策を行っている中国は、海外からの入国者には14日間以上の隔離を実施してきた。それでも2021年夏から中国各地で変異株の市中感染が発生。全市民一斉のPCR検査や、濃厚接触者の住宅や職場封鎖など厳しい対策を取り続けているが、政府が目指す「ゼロコロナ」は達成できていない。

2022年1月8日には北京の隣の天津市でオミクロン株の市中感染が発生。15日には北京市内でも感染者が確認された。感染者は過去14日以内に他省を訪れたことも、感染者と接触した経歴もなく、北京ではこれまでにない緊張感が高まっている。北京冬季オリンピック・パラリンピック組織委員会は国内の観客を入れての開催を予定していたが、17日になって観戦チケットを一般販売しないことを決めた。
政府機関が集まる首都北京では、全国でも厳しいレベルの感染対策がとられてきた。北京に入るには事前のPCR検査の陰性証明が必要だが、過去14日以内に1人以上の市中感染者が出た地区を訪れたことがある場合は、陰性証明があっても北京には入れない。また、海外から北京入りする人は14日間の集中隔離に加え、7日間の自宅またはホテルでの集中隔離、さらに7日間の健康観察をへなければ自由に出歩くことは許されない。

こうした厳戒下にある北京の選手村ではどのような感染防止対策がとられているのだろうか?
東京大会で組織委が発行した「プレイブック」では、ワクチンについては「各国の政策に従う」とあるだけで、実質的な効力はなかった。一方、北京大会のプレイブックには明確に規定されている。それによると、選手らは中国入国の14日前までにワクチン接種を終えていれば入国後の集中隔離は免除となり、接種をしていなければ21日間の集中隔離が求められる。一方、新型コロナの既往歴やアレルギーなどの身体的理由があれば、ワクチン接種は免除される。

東京ではボランティアや報道関係者は業務の内容によって4日か7日に1度のPCR検査を求められたが、北京では選手らと同様、毎日の検査が義務づけられる。マスクもN95など医療用の着用が求められるほか、ビニール袋で包んでから捨てること、着用時にぬれてしまった場合はすぐに取り換えることなど、細かい規定がある。

●選手の生活を支える商業施設 そこで行われる感染対策は?

大会期間中は選手村から出られない選手と関係者に少しでも快適に過ごしてもらおうと、村内には数々の工夫がある。まず目についたのは、大型ショッピングモールだ。モール内にはコンビニや花屋、クリーニング屋、写真屋、旅行会社などありとあらゆる店舗がそろっている。旅行会社は外国選手向けに万里の長城などをめぐる国内ツアーを提供する予定だったが、感染防止のため取りやめになった。
一方、中国文化を紹介するコーナーが設けられており、伝統衣装を着たスタッフがピアノの生演奏で選手らを出迎えてくれる。展示ホールでは、中国全土の無形文化遺産や伝統的な家屋などを見ることができる。「北京小屋(Shared Beijing)」という北京を紹介するブースのエントランスで出迎えてくれる女性は「AIボランティア」だ。実在の女性の映像にAIの声を合わせた画面の中のボランティアは6カ国語に対応し、どんな質問にも答えてくれる。同じ質問でも言語によって回答が異なるのも面白い。

さまざまな店舗やブースの中でも感染防止対策がひと際目立っていたのがコンビニだ。商品棚は一般的なコンビニと変わらないが、レジのブースがガラスでぐるりと覆われている。客が商品を買う時はレジブースの内側にバーコードを向け、ガラスの中からバーコードを読み取ってもらう仕組みになっている。

食堂のエントランスにはAIを載せたカメラが設置されており、食堂の混雑具合を自動的に判別し、利用者に混雑していないエリアを案内してくれる。カメラには検温とマスク着用を判別する機能があり、マスクを正しく着用していないとスクリーンに警告が表示される。

選手向けの食堂では、調理や配膳、清掃・消毒など各種スタッフが働くが、村内のメディアセンターの食堂は、AIによりほぼ無人化を実現している。窓口には「智能(AI)」の文字が掲げられ、「AIハンバーガー」「AI釜めし」「AI餃子」「AI麺」「AI炒め物」など、数々の料理がロボットにより調理されている。料理は天井に張り巡らされたレールで運ばれ、最後はクレーンゲームのようにテーブルに降りてくる。これにより人と人との接触を最低限に減らすのだという。

印象的だったのは、コカ・コーラが運営する「ピン・トレーディング」のブースだ。近年のオリンピックでは企業がつくる記念のピンバッジを各国の選手や観客が交換しあうことが風物詩のようになってきた。ただ、コロナ禍では人と人との接触を伴うピンの交換は難しい。そこで北京会場ではブースの壁一面にピンを交換するためのボードを設け、自分のピンを1つ刺せば、ほかの誰かが刺したピンを持ち帰ることができるようにした。

●選手が泊まるマンションの「快適度」は?

選手たちが宿泊するマンションも取材した。マンションにある施設の中でもっとも興味をひかれたのは、地下にある娯楽スペースだ。卓球台やビリヤードなど、数十種類のアクティビティが用意されている。特に目を引いたのはVRゲームだ。中国政府が開発に力を入れている深海事業や宇宙事業にちなんだ潜水艦や宇宙船での旅、西安の兵馬俑、敦煌の莫高窟など中国各地の観光地巡り、さらにはスキーが体験できるVRもあり、見ているだけでも飽きない。ここでは1人が利用するたびに紫外線照射により消毒されるそうで、感染対策にもぬかりがない。

居室は一般的なマンションと変わりないが、ミーティングのための会議室があるあたりが選手村らしい。バスルームは中国でよく見られるトイレとシャワーが一緒になっているタイプで、日本人にはほしいバスタブはない。東京では洗濯事情の悪さに不満が出ていたが、北京では各階に洗濯機、乾燥機が設置されており、ショッピングモールにもクリーニング店があることから、現時点では大きな問題はなさそうだ。

特別な工夫が凝らされていたのが、窓だ。中国のマンションでは洗濯物をベランダに干すか、ベランダがなければ窓から長い竿(さお)を引っ掛けて干すのが一般的だ。そのため、中国のマンションでは窓が開けてあったり閉めてあったりと見た目が不ぞろいであることがほとんどだ。選手村のマンションの窓は、見た目の統一感を保つために開けることができなくなっていた。その代わり、窓の隣に換気用の大きな「扉」を設けている。扉を開けても外観は変わらず、かなりの厚みがあるため、防音効果も大きい。また、カーテンの開閉は全自動で、遮光率は100%。選手たちに静かな環境で休んでもらいたいとの気持ちが込められている。

選手たちの睡眠の質を左右するベッドは、東京ではダンボール製であることが話題になった。北京で用意されたのは「スマートベッド」だ。睡眠、読書、テレビの3つのモードに合わせてリモコンで自由に頭や足の高さが調節できる。

最後にマンションの屋上から選手村の全体を見た。マンション群は、中央の庭園を四方から囲む北京の伝統建築「四合院」をモチーフに造られている。東京では選手村のマンションは一般向けに販売されたが、北京ではマンションは政府が所有し、北京にやってくる外国の高度人材に向けて貸し出されるのだという。

東京とは異なり、開幕まで1カ月を切っても中国国内から開催反対の声は聞こえてこない。ただ、感染者が増え続ける中、感染防止対策の転換を求める声が上がり始めている。そうした中で政府や組織委はコロナ禍でのオリンピックをどのように乗り切ろうとしていくのか、世界が注目している。

記事執筆
竹内亮、石川優珠

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