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川越といえば、うなぎと蔵造りの街並みとさつまいもと…?

富江弘幸ライター・編集者

川越はうなぎの街だ。

うなぎといえば浜松だったり、ひつまぶしの愛知だったり、生産量日本一の鹿児島だったり、うなぎで有名なところはいろいろあるが、川越のうなぎの街としての魅力は街の雰囲気なんじゃないだろうか。うなぎの店の老舗感ある佇まいや、それが違和感なく溶け込んでいる蔵造りの街並みは、ただでさえおいしいうなぎがよりおいしくなってしまうのだ。

そう、川越は蔵の街だ。

蔵造りの街並みは、かつて栄えた面影を残し、歴史の重みを感じさせる。川越藩は親藩・普代が大名が藩主となり、江戸の北を守る要衝でもあった。江戸と物資をやりとりする舟運も発達し、川越のさつまいもも江戸に送られるようになる。

川越のさつまいもは、江戸では「十三里」と呼ばれていた。「栗(九里)より(四里)うまい十三里」という洒落(九里+四里=十三里)がその由来だが、それだけ甘くておいしいさつまいもだったのだろう。

ちなみに、その江戸に送られたさつまいもを洗っていたのが六本木の芋洗坂、という話を聞いたことがあるが、真偽のほどは定かではない。

ということで、川越はさつまいもの街だ。

そんな川越にあるうなぎの店を何軒か取材したことがある。お店を訪れてお話をうかがい、店内やうな重の写真を撮影させてもらうという仕事だ。うな重の撮影をさせてもらったら、当然そのうな重をいただく。食べないと味がわからないからだ。

と書くと、「そう言ってるけどただ食べたいだけなんでしょ」なんて言われることもあるが(もちろん食べたいけれども)、実際に食べないとわからないことも意外とあるものだ。なので、撮影させていただいたら、ちゃんといただく。

食べたものについてはお支払いをして領収書をもらう。掲載媒体の経費となる場合もあるし、経費にならなかったら自分の事業の経費になるからだ。

と書くと、「経費でおいしいものを食べられていいね」なんて言われることもあるが(もちろんそう思うこともあるけれども)、実際には必ず経費になるわけではないのだ。掲載媒体の経費とならないこともあるし、自分の事業の経費にしたら課税所得金額が減るだけで、その分のお金がどこからか戻ってくるわけではない。

まあ、自分が食べたものなので、経費になってもならなくても、それはそれで満足している。なので、「経費でおいしいものを食べられていい」というのは、そうかもしれない。しかし、こういう取材で実際に困ってしまうのは「満腹」だ。

うな重はおいしくておいしくていくらでも食べられそうなものだが、実際のところ、胃袋は有限だ。連続で食べてみたらわかると思うが、とんでもなく満腹になる。お仕事をいただけた上においしいうな重を食べられるので、そこに関して何も不満はない。むしろ幸せだ。しかし、胃袋は有限だということを、否応なしに痛感させられる。

うなぎのお店の取材が終わったときには、「やりきった」という充実感があった。よくやった!自分をほめてあげたい!川越のコエドビールで祝杯を!

とも思ったが、液体といえどもビールの入る隙間は、自分の胃袋には少しも残っていなかった。

そう、川越はビールの街だ。

原稿を書き上げたあとに、改めて川越を訪れてコエドビールを飲んだ。そのときのビールの味といったら、もう。

ライター・編集者

ライター・編集者。1975年東京生まれ。法政大学社会学部社会学科卒業。卒業後は出版社・編集プロダクションでライター・編集者として雑誌・書籍の制作に携わる。その後、中国留学を経て、英字新聞社ジャパンタイムズに勤務。現在はウェブ、紙を問わずさまざまな媒体で記事を執筆している。日本ビアジャーナリスト協会のビアジャーナリストアカデミー講師も務める。著書に『教養としてのビール』(SBクリエイティブ、サイエンス・アイ新書)など。

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