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気づいた時は遅かったでは危険…心理師が解説する部下のメンタル不調に気づきにくい理由とリスク回避術

赤田太郎の仕事に役立つ心理学常葉大学(静岡県)准教授 博士(教育学)公認心理師臨床心理士

みなさんこんにちは。仕事に役立つ心理学の赤田太郎です。

普段は大学教員として、また学校や企業のカウンセリングなどを行ないながら、You Tubeインスタでこころの健康の大切さをSNSで発信しています。よろしければフォローをお願いします。

今回の記事では、部下のメンタルヘルス不調がいかに見えにくいのかをお話ししていきたいと思います。部下のこころの不調は見えにくいですよね。あの人が不調か、あの人が不調じゃないか、っていうのは、はっきり言ってわかりにくいです。しかし、管理監督者として部下の不調を見逃すと「安全配慮義務違反」として、重大な責任を負わされるリスクがあります。今回はそのリスクを回避するためのテクニックについてお話ししたいと思います。

わかりにくさを補うもの

その分かりにくさを補うのが、一つ目は検査です。ストレスチェックです。このストレスチェックの数値を見ることによって、把握していくのが一つのポイントです。

専門的には「スクリーニング」といいます。なんでスクリーニングという言い方をするかですが、スクリーニングは砂場で使う石と砂を分けるふるい、あの格子の膜のことを指しています。重要な人(リスクのある人)だけ「ふるい」に掛けて、大きい石だけ手元に残る、それがスクリーニングの意味になります。ストレスが高い人を見つけるという役割があります。

このスクリーニングは、身体的な検査はよく行なわれているのですが、精神的な検査による把握は行われていないので、やはりストレスチェックが重要となります。

メンタルヘルス不調はだれにも知られたくないもの

特にメンタルヘルス不調は、あまり人に知られたくない情報になるので、特に重要な個人情報になります。ゆえに労働者個人も、その会社に知られたくありません。

だから、それも気づきにくい大きな要因になっています。だから内緒にされる。気づきにくさの一つの原因になっています。

そして実際にその精神医学的な診断をするためには、さまざまな情報も必要になります。いろいろな情報を加味しないと、診断できない状況になるので、この内緒にされることが実際の判定の難しさにも繋がっています。そういう意味で、本人が症状を訴えてくれないと分からないという現実もあります。

その状態で診察(治療)が必要なのか?

次に、実際にその状態に対して診察が必要なのかっていう判断について考えたいと思います。まず、その「疑い」に気づくことが重要です。この疑いというのは、病名を特定することではなくて、「メンタルヘルス不調に陥ってるかどうか」をまず判定して、その後の対処法を検討すること。それが必要か、ということを判断することになります。

この判断ではポイントがふたつあり、

①医学的に診断をくだすこと

この人は病気(なんらかの精神疾患)であると判断することを「疾病性」と言います。今、よくうつ症状で気分が乗らなくて、イライラして食欲がない、という言い方は「疾病性」ということになります。最終的な診断を得るためには、医師への受診が必要です。

②その状況が社会(会社)にどれぐらい適応できてるか

現在の状況で、うまく滑らかな生活ができてるのかを判断するのが「事例性」といいます。具体的には、なかなか朝起きれなくなったり、遅刻が多い、という状況は、「事例性」の問題と言います。

疾病性と事例性に対するそれぞれの伝え方

この疾病性という捉え方と、事例性という二つの捉え方がある、ということを知っておいてください。特にメンタルヘルス不調については、この疾病性と事例性は一致するとは限りません。この疾病性と事例性を意識して、それぞれの伝え方を工夫する必要があります。

問題を起こしてない状況(事例性が問題ない状況)でも、抑うつ的にしんどい(疾病性に問題がある状況)ということもあり得ます。こういう状況になる場合も知っておく必要があります。特に本人も周囲も困ってない、要するに事例性の問題が起こっていない場合、管理監督者も気づいていないし、本人も気付いてないので、このときに強く受診を勧めるのは難しいと思われます。

問題となるような行動に対して、どういうかたちで対応したらいいのかをいくつかご紹介していきたいと思います。

①疾病性があり、事例性がないときの伝え方

まず、メンタルヘルス不調による病気である状況のときでも、管理監督者は基本的には自分本人も周囲の人も何ら困ってない場合は、専門医への受診などを強く勧めることはできないことになります。その理由は、会社上で問題を起こしてないので、とりたててあなたが病気だから行くべきだ、という理由もないからです。

そういうときは、ただ「状況として心配である」ということは伝えることができると思います。軽く受診を促す程度で止めるのが最善の方法になります。

②疾病性がなくても、事例性が問題あるときの伝え方

次に職場管理上の問題がある時、要するにうまく仕事が回せないっていう状況になってる時、例えば大きな仕事を放り出したりとか酔っ払った状態で出勤してきたりした時に、どう対応するかということです。

これはいわゆる専門医への受診や治療を受けるように命じることができます。その時に、これはメンタルヘルス不調による病気ではないと医師が判断した場合は、問題となる行動の内容に応じた懲戒処分などを行うということになります。職務義務違反っていうことになるので、仕事ができてなかったら、契約上の不履行ということになります。そのため、何らかの懲戒を受けることになります。

③メンタル不調が疑われるが本人が受診を拒否する場合

次に、メンタルヘルス不調による行動と推測されるが、本人が治療を拒否したらどうするかについて解説します。本人が拒否してしまうと、「じゃあどうしたらいいか」となりますが、この時はなるべく「家族」に事情を説明して、家族の理解を得て、なるべく病院につなげることが必要かと思います。

この時でも、やはり本人の了解を得て、家族に連絡するっていうのが必要です。そして、家族も受診に同意しない場合は、いわゆる人事労務担当者とか、事業場内産業保健スタッフを交えて、どういう対応していけばいいのかを意見を出し合って、対応していくことになります。

メンタルヘルス不調は、身体疾患以上に他人に知られたくないことなので、なるべく公にしない、隠したいっていうことをする場合があるので、その辺はプライバシー保護の配慮として、気を付けて対応しないといけないということになります。

スクリーニングテストを過信しない

先ほどスクリーニングのことについて、検査に引っ掛かったら「陽性」になるのですが、実際にはうつ病でもないにもかかわらず、うつ病にスクリーニングされることもあります。そのことを「偽陽性」といいます。ただ単純にスクリーニングにかけられて「うつ病の疑いがある」からといって、それをもってうつ病だと決めつけないことが重要になります。

企業系のメンタルチェックは、得点が悪く出やすいといわれています。その人の現状よりも悪く出やすいって言われてるので、そのようなバイアスもあることを知っておいてください。

それでは、今回は心の不調の見えにくさというところから、部下のメンタルヘルス不調を以下に見逃さないかについてお話ししました。対応としては、なぜ見えにくいかというのを分かった上で対応していかないと、安全配慮義務違反として管理監督者が訴えられるリスクがあるので、実際の対応の時にこれらの配慮を職場でしていただければと思います。

記事を最後までお読みいただきありがとうございました。

赤田太郎の仕事に役立つ心理学では、このチャンネルでは、仕事や家庭にまつわる心理学をだれでもわかる言葉で解説しています。メンタルヘルスの大切さを社会に広めることで、苦しむ人がいなくなる社会を目指しています。よろしければ フォローをよろしくお願いします。

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また次の記事でお会いしましょう!

常葉大学(静岡県)准教授 博士(教育学)公認心理師臨床心理士

常葉大学(浜松)健康プロデュース学部心身マネジメント学科/常葉大学大学院健康科学研究科臨床心理学専攻 准教授。立命館大学/武庫川女子大学・大学院非常勤講師。働く人と家庭のメンタルヘルス・ストレス・トラウマが専門。働くみなさんにこころの健康の大切さを伝えるために、誰でもわかりやすい心理学をYouTube・Instagramで発信しています。

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