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【なぜ日本の特撮ヒーローはアメリカで成功した?】外国で日本のヒーローが戦った文化の壁とは?

二重作昌満博士(文学)/PhD(literature)

こんにちは!

文学博士の二重作昌満(ふたえさく まさみつ)です。

少しずつ暖かい日も増えるようになった今日この頃、

皆様いかがお過ごしでしょうか?

今回のお話のテーマは「スーパーヒーロー」です!

突然ですが、皆様はスーパーヒーローといわれると何を思い浮かべますか?

日本では、ウルトラマンや仮面ライダー、スーパ戦隊シリーズ・・・

ウルトラマンシリーズ(筆者撮影)
ウルトラマンシリーズ(筆者撮影)

アメリカでは、スパイダーマン、アイアンマン、スーパーマンにバットマン達・・・

『スパイダーマン3』より、スパイダーマン(筆者撮影)
『スパイダーマン3』より、スパイダーマン(筆者撮影)

文化や風俗習慣は異なっていても、たくさんの国でスーパーヒーローを題材とした番組や映画が製作されており、特に日米両国はそれぞれ高い人気と国際的知名度を誇るヒーロー作品が次々に発表され、長い歴史を紡ぎ続けています。

いわば「スーパーヒーロー大国」とも呼んでも過言ではない日本とアメリカ。

しかしながら、日本とアメリカ両国のスーパーヒーロー達がお互いに交流し合い、影響を受けながらシリーズを存続させてきたことは、実はあまり知られていません。

そこで今回は、日本で活躍するスーパーヒーロー達がアメリカで愛されるようになった歴史に焦点を当ててお話をして頂きたいと思います。

※本記事は「私、スーパーヒーローにくわしくないわ」という方にも気軽に読んで頂けますよう、概要的にお話をしておりますので、肩の力を抜いてゆっくり本記事をお楽しみ頂ければと思います。

アメリカには日本の特撮ヒーローの記念日がある?ハワイで道徳的に評価された日本のスーパーヒーローって誰?

皆様は、アメリカ合衆国50州の中で一番最後の州はどこかご存知でしょうか?

そう、定番の人気観光地として現在も日本人観光客に愛されているハワイ州です。

ハワイでは、日本語テレビ局の創立や日系人が多いことから、日本からたくさんのスーパーヒーロー番組が輸入されました。

その中でも、特にハワイの人々から愛されたスーパーヒーロー番組がありました。

その名は、『人造人間キカイダー』。

キカイダー(写真右)とその兄、キカイダー01(筆者撮影)
キカイダー(写真右)とその兄、キカイダー01(筆者撮影)

キカイダーは仮面ライダー・スーパー戦隊シリーズの原作者として知られる石ノ森章太郎先生によって生み出され、悪の組織「ダーク」が送り込むロボットと、人間に味方するキカイダーが戦う内容で1972年に放送されました。

そんなキカイダーがハワイへ輸入されたのは1973年のこと。当時、海外ドラマは吹き替えが主流であった中、なんと日本で放送された本編に英語字幕をつける形で、日本語テレビ局のKIKU-TVで放送が開始されました。するとこれが爆発的なヒットとなりました。

ハワイ州ビショップ博物館内展示(2014年筆者撮影)
ハワイ州ビショップ博物館内展示(2014年筆者撮影)

住所:1525 Bernice St, Honolulu, HI 96817
メール:claudette@bishopmuseum.org
電話番号:808-847-3511
URL:https://www.bishopmuseum.org/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E/(外部リンク)

KIKU-TV史上最高視聴率である24%を記録したほか、当時のショッピングセンターで開催されたサイン会には1万人が押しかけ、ディスコにも「人造人間キカイダー」の主題歌をかけて若者達が踊り出す現象も発生しました。

もはや社会現象ともいえる爆発的ヒットに留まらず、このキカイダーはハワイの政治の世界にも影響を与えました。

まず、『人造人間キカイダー』及びその続編『キカイダー01』にて主人公を演じた俳優の伴大介氏(キカイダー:ジロー役)と池田駿介氏(キカイダー01:イチロー役)がハワイにて名誉市民に認定されました。その最大の理由が、キカイダーを観て育った子ども達が道徳的に成長したことに対する評価でした。つまり、ハワイは日本の特撮ヒーロー番組を教育的見地から評価していたのです。

さらに、キカイダー放送当時に行なわれたハワイ州議会議員選挙において、立候補者の一人が「ミスター・ギル」(キカイダーに登場する悪の組織の首領)を名乗って選挙に出馬し、キカイダー人気にあやかって票を得ようとしたところ、結局落選した逸話が残されています。

その後、キカイダーはハワイで再放送が何回も繰り返され、21世紀に入るとハワイ州カエタノ知事により2002年より4月12日を「ジェネレーション・キカイダー・デイ」、マウイ市長により2007年から5月19日を「キカイダー・ブラザーズ・デイ」として制定されました。

仮面ライダーや戦隊シリーズと比較して、日本での知名度はそれ程高くはないキカイダーですが、ハワイでは州を象徴するスーパーヒーローとして浸透してきた歴史があったのです。

アメリカの仮面ライダーは宇宙人?日本の特撮ヒーローが戦った米国の難しい文化事情とは?

今でこそ「日本のアニメが世界中で大人気!」なんて報道されるのは日常茶飯事ですが、世界各国で日本のアニメ・特撮作品が高い国際的認知度を誇るようになったのは、作品の著作側である製作者達の尽力があってこそ。異なる文化圏の人達に作品を受け入れてもらうにはどうしたら良いか?試行錯誤の連続であったと推察致します。

実はその最たる例が、日本ではお馴染みのスーパー戦隊シリーズでした。

スーパー戦隊シリーズが米国へと進出したのは1993年のこと。シリーズ第16作『恐竜戦隊ジュウレンジャー(1992)』をベースに、“Mighty Morphin Power Rangers(マイティ・モーフィン・パワーレンジャー)”と題し、アメリカで放送されました。番組内容は、スーパー戦隊シリーズ第16作「恐竜戦隊ジュウレンジャー」をベースに、日本人の俳優さん達の出演シーンを現地俳優さん達の出演シーンに差し替え、着ぐるみやミニチュアを使った戦闘シーンは日本で撮影した映像を流用する形で、約30分の番組として編成したものでした。

恐竜戦隊ジュウレンジャー(筆者撮影)
恐竜戦隊ジュウレンジャー(筆者撮影)

当内容で放送された本作は、アメリカで爆発的なヒットを巻き起こします。ロサンゼルス地区のテレビ局では最高9.1%の視聴率をたたき出した上、1994年には1年間でフィギュアを1800万体販売して10億ドル売り上げたほか、あまりの人気にクリントン大統領夫妻は本作の出演俳優をホワイトハウスへ招待したほどでした。

このように、アメリカで爆発的なヒットを飛ばした「マイティ・モーフィン・パワーレンジャー」は「アメリカの歴史上、もっとも成功した子ども番組」と評されるまでに至りました。

しかしながらこのパワーレンジャーの成功の裏には、日米文化の違いによりいくつかの障壁が発生していたこともまた事実でした。

例えば「なぜ5人が敵の前でわざわざ名乗るんだ」問題。日本のスーパー戦隊シリーズは、敵を前にしてメンバーひとりひとりが名を名乗り、名乗り終えたら敵と戦う流れですが、

アメリカは銃社会かつ西部劇の国。名乗っている暇があったら撃たれるわけです。

そこで、当時の東映のプロデューサーは、名乗りとは歌舞伎のような日本の伝統芸能であり、名乗ることで敵側にも視聴者にもその名をしらしめることができるんだと力説し、アメリカサイドに納得してもらったそうです。

このような外国に日本の番組を持ち込む際に起こりうる文化の違いですが、同じく東映の人気ヒーロー番組である仮面ライダーシリーズでも発生しました。

パワーレンジャーの成功を受け、東映は仮面ライダーシリーズを、『SABAN's MASKED RIDER(マスクドライダー)』と題してアメリカへと進出させました。

「その時、不思議なことが起こった。」仮面ライダーBLACK RX(写真中央、筆者撮影)
「その時、不思議なことが起こった。」仮面ライダーBLACK RX(写真中央、筆者撮影)

本作は、日本で放送されたテレビ番組『仮面ライダーBLACK RX(1988)』をベースに、パワーレンジャーと同様、現地俳優さん達の出演シーンのみ新しく撮影し、着ぐるみを使った戦闘シーンは日本で撮影した映像を流用した約30分番組でした。

仮面ライダーBLACK RXは、悪の帝国によって宇宙へと放り出された改造人間の主人公が仮面ライダーとなって地球を守る物語であるのに対して、マスクドライダーは宇宙の惑星からやって来たデックス王子が仮面ライダーに変身して、悪の軍団から地球を守るお話。

「なんでアメリカの仮面ライダーは宇宙人なんだよ」

・・・ごもっともな意見だと思います。これには、日本の仮面ライダーシリーズが活用してきた「改造人間」という設定が、アメリカの子ども達に理解されにくいという製作者の判断によるものでした。

仮面ライダーシリーズは、第1作『仮面ライダー(1971)』において主人公が悪の秘密結社ショッカーによって改造手術を施されて、バッタの能力を持った大自然の使者・仮面ライダーとなり、ショッカーと戦う物語。本作以降、「仮面ライダーに変身する主人公=改造人間」という設定が毎作継承される形でシリーズは存続していきました。

しかしながら、ここは異国の地・アメリカ。

そもそも「改造手術」ってなんなんだ?というのを相手方に説明しなければなりません。

アメリカで活躍するヒーロー達の特徴として、その誕生の経緯には何かしらの科学的説明が求められていました(例えば、非力な青年が超人血清を注射されて誕生したキャプテン・アメリカ、科学オタクの青年が実験体のクモに噛まれ誕生したスパイダーマン、科学者が特殊なガンマ線を浴びて誕生したハルク等が該当します)。

「改造手術」とは何か?特殊な血を射つのか?はたまた特殊な放射線を浴びるのか?

・・・挙げるとキリがないですが、異国であるアメリカでの放送を踏まえ、仮面ライダーを宇宙人(ティーンエイジャー風の少年)にし、物語も学園ドラマ風コメディにしたのだとか。本作は1995年にアメリカで放送され、全米子ども番組史上最高視聴率という好調なスタートだったものの、その後人気を得ることは難しく、第1シーズンでの終了となりました。

マスクドライダーが興行的に振るわなかった故か、しばらくはアメリカでの仮面ライダーシリーズの製作は中断されました。その後、2008年に『仮面ライダー龍騎(2002)』をベースとした『KAMEN RIDER DRAGON KNIGHT(仮面ライダードラゴンナイト)』がアメリカで放送されたものの、残念ながらヒットに至らず、全40話で放送が終了する形となりました。

「戦わなければ生き残れない。」仮面ライダー龍騎(写真中央、筆者撮影)
「戦わなければ生き残れない。」仮面ライダー龍騎(写真中央、筆者撮影)

「日本であれだけ人気の仮面ライダーがアメリカでは苦戦するなんて・・・!」

私もこの意外な結果に驚いたと共に、必ずしも日本で人気だから米国でもヒットするとは限らないといった商業面での難しさを感じました。他にも、同じ東映作品『重甲ビーファイター(1995)』をベースとした『SABAN'S BEETLEBORGS(ビートルボーグ)』シリーズが放送されましたが、パワーレンジャーとの差別化が困難であった故か、長期シリーズには至りませんでした。ある意味、アメリカでの東映ヒーローのライバルは東映ヒーローといった状況が当時出来ていたのかも知れません。

『SABAN'S BEETLEBORGS』(重甲ビーファイター、筆者撮影)
『SABAN'S BEETLEBORGS』(重甲ビーファイター、筆者撮影)

とはいえ、仮面ライダーシリーズはその後アメリカでは音沙汰はないのか、となると決してそんなことはございません。私もアメリカ本土によく出入りしたり、ハワイにてロングステイをしていたのですが、フロリダのディズニーリゾートやハワイのアラモアナショッピングセンターでも、仮面ライダーのフィギュアが発売されていたり、近年では、高橋文哉さん主演の『仮面ライダーゼロワン(2019)』のコミック展開(タイトル:Kamen Rider Zero-One)が発表される等、アメリカでも仮面ライダーは現在も戦い続けています。これからの展開が楽しみですね♪

ディズニーリゾート内 エプコット日本館にて(2014年筆者撮影)
ディズニーリゾート内 エプコット日本館にて(2014年筆者撮影)

Walt Disney World Resort
・住所:1482 E Buena Vista Dr, Lake Buena Vista, FL 32830
・電話番号:+1 407-938-9653
・公式サイト:https://disneyworld.disney.go.com/(外部リンク)

アラモアナセンター白木屋内(現在は閉店、2019年筆者撮影)
アラモアナセンター白木屋内(現在は閉店、2019年筆者撮影)

Ala Moana Center: Shopping Mall in Honolulu, HI
住所:1450 Ala Moana Boulevard, Honolulu, HI 96814
電話番号:+1-808-955-9517
URL:https://www.alamoanacenter.com/ja.html(外部リンク)

いかがでしたでしょうか?

日本で悪と戦うスーパーヒーロー達が、外国に輸入されると戦うのは悪だけではなく、その国の文化や習慣とも戦ってきたことが、皆様に伝わりましたら大変嬉しく思います。

最後までご覧頂きまして、誠にありがとうございました。

(参考文献)
・鈴木武幸、夢(スーパーヒーロー)を追い続ける男、株式会社講談社
・大下英治、仮面ライダーから牙狼へ 渡邊亮徳・日本のキャラクタービジネスを築き上げた男、株式会社竹書房
・大場吾郎、「テレビ番組海外展開60年史 文化交流とコンテンツビジネスの狭間で」、人文書院
・山下大樹・嶌田美智子(ノトーリアス)、「特撮ヒーローの常識 70年代篇」、双葉社

この記事を読んで頂き、「海外での日本特撮やアニメ作品の展開に興味を持った」という皆様、私の過去の記事やTwitterにて、海外現地での様子や商品展開についてもお話をさせて頂いております。宜しければ、ご覧ください。

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Masamitsu Futaesaku Ph.D(Twitter)(外部リンク)

博士(文学)/PhD(literature)

博士(文学)。日本の「特撮(特殊撮影)」作品を誘致資源とした観光「特撮ツーリズム」を提唱し、これまで包括的な研究を実施。国内の各学術学会や、海外を拠点とした国際会議へも精力的に参加。200を超える国内外の特撮・アニメ催事に参加してきた経験を生かし、国内学術会議や国際会議にて日本の特撮・アニメ作品を通じた観光研究を多数発表、数多くの賞を受賞する。国際会議の事務局メンバーのほか、講演、執筆、観光ツアーの企画等、多岐に渡り活動中。東海大学総合社会科学研究所・特任助教。

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