【横浜市青葉区】どうして、閉店なんですか? 名店パン屋「ラ・ベルコリーヌ」さんに聞く。7/17閉店へ
たまプラーザ駅前から続く、坂を上りきった場所にまるで灯台のようにあるパン屋さん「ラ・ベルコリーヌ」さん。
東急田園都市線たまプラーザ駅近く、ベーカリーカフェ「ラ・ベルコリーヌ」(横浜市青葉区美しが丘1丁目)さんが2023年7月17日閉店予定となりました。
たまプラーザに2000年にオープンして以来、ヨーロッパスタイルのパンを作り続けている 「ラ・ベルコリーヌ」さん。
実はその前から「パンペルデュ」という名前のお店がこの場所にありました。あわせて約26年間、同じ方がこのお店でパンを焼いていました。
「パンペルデュ」時代からすでに、雑誌で著名料理評論家から「クロワッサン」を高く評価されていました。
また、クロワッサンだけでなく食パンやバゲット、カンパーニュなど、良質の素材を使った飽きのこない食事パンには長年のファンが多いお店です。
今回の閉店は突然に思われ、驚いた方も多いのではないでしょうか。
地域の方へのメッセージを聞きたくて、ご連絡しましたところ、快く取材に応じてくださいました。
たまプラーザの名店ベーカリーカフェ「ラ・ベルコリーヌ」が7月17日に閉店予定。食卓を幸せにしてくれたパンをありがとう。
ー 昨年、シュトーレンを焼いていた頃にはもう閉店をお考えだったのですか?
いいえ、その頃には閉店は考えていませんでした。
■過去記事【横浜市青葉区】人気クリスマス菓子「シュトーレン」をベーカリーカフェで。おいしさの理由をインタビュー
ーたまプラーザ周辺のレストランでは「ラ・ベルコリーヌ」さんのバゲットを置いているお店が多数あります。レストランのみさなまも驚かれたのでは?
そうなんです。それは申し訳ないような気持ちです。
閉店を決めたのは、家族の転機
ー2023年7月のタイミングでの閉店を、以前から考えられていたわけではなかったのですね。
そうです。実は母が昨年末、大きな病気をしました。
それでかなり弱ってしまったのです。現在だと夜間、一人になってしまう状況なので。それでも休みの前日には夜間にいるようにしていたのですが。
長く勤めてくれているアルバイトスタッフがいて助かっているのですが、そうは言っても自分一人で行う仕事も多い。
家族のための時間を作ることが現在の働き方では体力的にも難しくて。
ーパン屋さんのお仕事は早朝からスタートするとお聞きします。
週末前は午前4時、平日は午前4時20分からスタートしています。前日に焼いたパンを朝食にしています。
今は家族に寄り添う時間が必要
ー早朝からお忙しい生活を20年以上続けられて、今、家族に寄り添いたいという気持ちはとてもよくわかります。
5年後、10年後に閉店を決めても、やはり地域のお客様に申し訳ない気持ちは同じかもしれない。
それなら、今は閉店をしてまずは家族に寄り添い、そして働き方を変えていこうと考えました。
日常的に食べて欲しいパンであるために
ー最近では原料の小麦粉やバターの値段の上昇にともなう材料費の高騰といったパン屋さんを取り巻く状況も話題になります。
「ラ・ベルコリーヌ」でも値上げしてきました。ただ、「値上げのチャンス」とは捉えずに、最低限反映するにとどめてきました。
ー「ラ・ベルコリーヌ」さんは値上げ幅が小さかった印象です。バターのみを使って、他の半固形状の油脂を使用しないスタイルのパンにも関わらず、長い間、値段が抑えられているという印象を持っているお客様が多いですね。
値段を抑える努力をしているのは、特別なときではなく、日頃から食べて欲しいから。毎日買いに来る人もいるので、「毎日食べられるパン」である必要があります。
1回パン屋さんに来て、3500円くらいの支払いになってしまうと、来れなくなってしまうかもしれませんよね。
新商品は出さないし、「映えるパン」も作っていない。浮いた利益は求めない。
ただ、自家製と言っているので、本当に自分で作る。これを守らないと信頼関係が失くなってしまいます。
信頼関係が大事だと思っています。
フランスのバゲットのように。普段食べられる価格を意識して。
ー毎日の食卓にのる信頼されるパン、として作り方にも価格にもこだわっていらしたんですね。
今はもしかしたら違うかもしれないけれど、フランスではバゲットは普段食べるものだから1ユーロ(※筆者注 1ユーロは2023年7月1日時点で157.62 円)です。ですから、あまり高価な値段にはしたくないんです。
そのかわり、こんなふうに夕方に一人で店番をしたりすることになるのですが。
(※筆者注 インタビューが行われた2023年6月下旬夕方、訪れるお客様を一人で接客される合間に質問に答えていただきました。 接客スタッフさんが複数名いる時間帯もあります。)
「ラ・ベルコリーヌ」さんもお客様を信頼していることが伝わってきます。
ー以前、インタビューした際に「青葉区はとてもパン屋さんが多い」というお話をしてくださいました。たしかにこの20年でたまプラーザにもパン屋さんが増えましたね。
それぞれのお店に客層があり、もちろんビジネス的に成功しています。
それでも「ラ・ベルコリーヌ」のお客様は変わらず買いに来てくださるので、不安なくやっていくことができました。
ーお客様が「ラ・ベルコリーヌ」を信頼しているだけでなく、「ラ・ベルコリーヌ」さんもお客様を信頼しているということが伝わってきます。長年通われて、すでにシニアと呼ばれる世代になっているお客様もいらっしゃいますよね。
長く変わらずお店に来ていただいて本当に感謝しています。ありがたいことです。
パン作りというのは「ご家庭の食卓に入りこむ」という仕事
ーそれだけ長く来てくださるお客様は、閉店を知って驚かれたのではないでしょうか。
今回、閉店をお知らせしてから、長年来てくださるお客様から「これからどうすればいいのか家族会議をした」、「どこで買えばいいの」という声をかけていただくこともあります。
お叱りを受けているようで。それだけインパクトが大きいのだなと思います。
お客様の反応を聞いて、パン作りというのは「ご家庭の食卓に入りこむ」という仕事だったんだな、とありがたく思いました。
正直寂しい。でも続けられた感謝の気持ちのほうが大きいです。
ーご常連の方へのメッセージを聞かせてください。
正直、寂しい気持ちもあります。
でも、「パンペルデュ」、「ラ・ベルコリーヌ」時代と約26年間、この土地でパン屋を続けられて感謝の気持ちのほうが今は大きいです。
「パンペルデュ」時代からのお客様が描いた風景画。
ー壁に額装された絵があるのも、ヨーロッパ的な雰囲気の店内によく似合っています。
これは「パンペルデュ」時代からのお客様が描いたフランスの景色です。
実は「この壁に絵を飾らせて欲しい」というお申し出を、別の方から受けることもあります。おそらくギャラリーのようにしていると思われたのかもしれません。でも、それはお断りして、変わらず同じ方の絵を飾っています。
ー大事な絵なんですね。その「変えない」というお人柄が、店内を落ち着きある空間にしている理由のひとつなのかもしれませんね。
パン作りのDNAが伝わっているかも「独立した方が成功しているのも喜びです」
ちなみに「ラ・ベルコリーヌ」さんを経て独立された方は5人。日本各地(※残念ながら横浜市青葉区近隣エリアではありません)で「それぞれ成功しているのもうれしいこと」だそう。
一般的に開業される方は複数軒のパン屋さんで修業されるとのことで「この店舗以外でもお勤めされていたから」と控えめに語られる「ラ・ベルコリーヌ」さん。
とはいえ、「ラ・ベルコリーヌ」さんの「パン作りDNA」とも呼べるなにかは息づいているのではないでしょうか。
一軒だけ、教えていただいたのが長野県佐久市の「ベーカリーTETE(テテ)」さん。佐久商工会議所の「佐久のお土産」(外部サイトへ)にも掲載されています。こちらのお店には「ラ・ベルコリーヌ」さんも足を運んだことがあるとのこと。
佐久市に行ったときはぜひ立ち寄りたいお店です。
パンの世界のお話をもう少しだけ。
ー「ラ・ベルコリーヌ」さんはバゲットが3種類ありますが「バタール(※バゲット生地を使用し、棒状ですが短くて丸みがある形に成形されたパン)」はないです。
バタールは何回か作ってみたけれど、うちの生地には合わないようです。塩味が変わってしまうような気がしていて。それで作らないんです。「ブール(※ノーマルタイプのバゲットと同じ生地を使用した丸形のパン)」だと大丈夫なのですが。
皮の香ばしさ、発酵の香り。それがバケットのおいしさですね。
カンパーニュはバゲットクラシックと同じ生地です。
バゲットやレザン・フィセル(※干し山葡萄をぎっしり入れた細長いパン)は登山をする方たちが山登りに持って行くのにも人気です。
ー筆者もバゲットをキャンプや山登りに持参したことがあります。つぶれにくく、味わいがしっかりしているので、トーストしなくても美味しく食べられます。持っていると安心します。
過去記事リンク:【横浜市青葉区】ハード系パン好きにぜひ食べて欲しいバゲットサンドイッチ、バゲットはなんと3種類も。
目まぐるしく変わる世の中、ホッとさせてくれたパンとカフェ
ひとつひとつ丁寧に答えてくださったオーナーシェフ。つい、いろいろ質問してしまい、インタビューの予定時間を大幅に越えてしまいました。
日々、目まぐるしく変わる世の中と人生、いつもの美味しさにホッとできた方も多いのではないでしょうか。
作り手の顔が見え、しっかり守られた世界感が伝わる…それが個人店が持つ魅力とも言えます。そのぜいたくとも言える世界を安定的に保つのは並大抵の努力ではなかったことでしょう。
ひたすら仕事に邁進する時期、そしてキャリアチェンジをして家族のために使う時間を優先するときなど、いろいろな転機が訪れるのが、人生かもしれません。
閉店情報を聞いた当初は筆者もかなり驚きました。しかし今回のインタビュー後は、どこか清々しい気持ちになれました。
地元で大好きなパン、過ごしやすいカフェに恵まれたことに感謝したいです。
大事な時間を本当に好きなお店で過ごしていきたい。お店にとってもお客にとっても時間は大切なのだから・・・そんな気持ちを新たにしたインタビューでした。
「ラ・ベルコリーヌ」オーナーシェフ様、本当にお忙しいなか、取材を受けていただきありがとうございました。
【店舗情報】※2023年7月17日閉店予定。
店名:La Belle Colline(ラ・ベルコリーヌ)
住所:横浜市青葉区美しが丘1-9-1平野ビル1階
電話:045-901-4142
営業時間:10:00〜18:00 ※売り切れ次第終了
※2023年7月の休業日:4日(火)、5日(水)、11日(火)
2023年7月17日をもって閉店予定。
ラ・ベルコリーヌさんInstagram(インスタグラム)アカウント:belle_colline(外部サイトへ)