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【なぜ日本の特撮ヒーローはアメリカ社会に適合できた?】日本製ヒーロー達が米国と紡いできた『縁』とは?

二重作昌満博士(文学)/PhD(literature)

こんにちは!

文学博士の二重作昌満(ふたえさく まさみつ)です。

段々と日差しが暖かくなり、春の空気感に包まれてワクワクする季節になりました♪

皆様、いかがお過ごしでしょうか?

さて、今回のテーマは「スーパーヒーロー」です!!

一口にヒーローといっても様々ですが、本記事でお話しするのは悪と戦う正義の超人達。

日本では、アニメや特撮、マンガといった作品の中で、様々なヒーロー達が誕生しました。

私達が暮らす日本という国では、ウルトラマンや仮面ライダー、スーパー戦隊などの特撮ヒーロー達のほかに・・・

仮面ライダーシリーズより仮面ライダー電王とゼロノス(筆者撮影)
仮面ライダーシリーズより仮面ライダー電王とゼロノス(筆者撮影)

アニメヒーローでは、今年シリーズ20周年を迎えたプリキュア達もいます。

「女の子だって暴れたい!!」プリキュアシリーズ(筆者撮影)
「女の子だって暴れたい!!」プリキュアシリーズ(筆者撮影)

さらにアメリカでは、アイアンマンにスパイダーマン、スーパーマンやバットマン達が市民の平和を守るため、身近に潜む犯罪者から宇宙の巨悪まで、幅広い悪と戦い続けてきました。

アイアンマン(筆者撮影)
アイアンマン(筆者撮影)

ここまで紹介した日本やアメリカで活躍したスーパーヒーロー達ですが、それぞれが非常に長い歴史を有しており、今年2023年も日米のスーパーヒーロー達が実写やアニメ作品の中で大活躍をする予定です。

日本では、現在公開中の『シン・仮面ライダー』をはじめ、アニメ作品『グリッドマン・ユニバース』といった映画作品の他、2023年10月には深夜アニメ作品『キボウノチカラ~オトナプリキュア'23~』が放送予定です。

一方でアメリカも、5月には『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME 3』、以降も『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース 』、『ザ・マーベルズ』等が公開予定です。

実写ドラマでも、特撮でも、アニメでも・・・私達のまわりにはたくさんのスーパーヒーロー達が活躍しており、今日もそれぞれの大切なもののために戦い続けています。

正に「スーパーヒーロー大国」とも呼んでも差し支えない日本とアメリカ。

しかし両国のスーパーヒーロー達が、自国とは異なる国で活躍する際、彼らが戦うのは平和を乱す悪だけではありませんでした。ヒーロー達は、それぞれの国の文化の違いとも戦い続けていたのです。

そこで今回は、日本のスーパーヒーロー達がアメリカで活躍する際に生じた文化の違いと制約についてご紹介したいと思います。

※本記事は「私、スーパーヒーローにくわしくないわ」という方にも気軽に読んで頂けますよう、概要的にお話をしておりますので、肩の力を抜いてゆっくり本記事をお楽しみ頂ければと思います。

【なぜウルトラマンはマント無しでも空を飛ぶ?】アメリカ人作家の描く「変身」ではなく「変装」するウルトラマンとは?

皆さんは、アメリカのスーパーマンやスパイダーマンが登場する際、どんなプロセスでヒーローになるのかご存知でしょうか?両ヒーローは、普段は一般青年の姿ですが、事件が起これば衣服を脱ぎ、その下に着用していた特殊スーツを胸元から露わにしてヒーローへと姿を変えていきます。いわば、着替えによる「変装」によって、正体を知られることなく活動するヒーロー達が人気を博すこのアメリカにおいて、日本が誇る国民的ヒーロー・ウルトラマンは上陸しました。しかしその活躍には、様々な紆余曲折が存在していたのです。

アメリカにウルトラマンが輸出されたのは1966年のこと。その後ハワイでウルトラセブンが放送される等の過程を経て、1987年にシリーズ初の日米合作のウルトラマンが製作されました。作品名は『ULTRAMAN THE ADVENTURE BEGINS(日本語タイトル:ウルトラマンUSA)』。アメリカ初のウルトラマンはアニメ作品だったのです。

ウルトラマンUSA(左よりベス、スコット、チャック 筆者撮影)
ウルトラマンUSA(左よりベス、スコット、チャック 筆者撮影)

『ウルトラマンUSA』は、M78星雲の惑星ソーキンからやって来た怪獣達(ソーキン・モンスター)がアメリカ各地に出現し、それを追ってやって来た3人のウルトラマンがアメリカ空軍の隊員達と一心同体となって、怪獣達から地球を守るというお話。

アメリカのアニメ制作会社ハンナ・バーベラ・プロダクション(『トムとジェリー』の制作会社)と円谷プロダクション(ウルトラマンの制作会社)の提携でつくられた本作の視聴率は好評だったようで、同時期の子ども向け映画としては第3位の高視聴率だったとか。

ウルトラマンが3人も出てきてチームを組む点が斬新な作品ですが、本作の製作にあたり、日本とアメリカ両サイドでヒーローのデザインに対して何度も議論が重ねられていたのです。

まず、「ウルトラマンのあの体はコスチュームなのか」問題。

実は、『ウルトラマンUSA』が製作される以前、『ウルトラマンU・S・A ULTRAMAN HERO FROM THE STARS』(1981年7月7日 第一稿)と題した企画があり、シリーズ初のアメリカ人作家(ダン・グレート氏)によって描かれたウルトラマンシリーズでした。

本作の物語は、ウルトラマン達の故郷「M78星雲・光の国」にて、地球人換算で二十代半ばの青年ボルカンが、ウルトラの父よりウルトラマンに変身するためのユニフォームと武器(短剣)を与えられ、地球を守る任を与えられるというもの。

つまり本作は、スーパーマンやバットマンのように、人間が奇抜なコスチュームを身に纏って「変装」するウルトラマンという形で製作される予定でした。私達日本人の感覚では、ウルトラマンは人間が「変身」する、即ち「別の存在になる」認識が強いですが、アメリカでは当初、ウルトラマンのあの姿は人間が変装する姿として構想していたようです。

結局この企画は実現に至らず、今回ご紹介している『ウルトラマンUSA』に至るわけですが、もしも実現していたら、衣服の着用で変身するウルトラマンも少し見てみたかったりもしますね・・・。

続いて「ヒーローはマント無しで空を飛べるのか」問題。

私達が知っているウルトラマンは空を飛びますが、この空を飛ぶ描写について「なぜマントがなくても空を飛べるのか?」アメリカでは疑問だったようです。

『ウルトラマンUSA』の製作にあたり、アメリカサイドが提案したウルトラマンのデザインは、スパイダーマンやスーパーマンを彷彿させるもので、先述したマント無しでヒーローは空を飛ばない点等、アメリカ人のヒーローに対する認識は、日本人と大きく異なっていました。

そこで、日本側のデザイナーが再度手を加え、アメリカに送る作業が何度も行なわれたのだとか。その結果、今日活躍するウルトラマンUSAのデザインに至ったわけですが、上記のやり取りからも、ウルトラマンに対する日本人とアメリカ人のヒーロー観の違いが現れていました。

実はこのヒーローにマントが必要か否かの議論・・・アメリカのスーパーヒーロー映画でも度々挙げられてきたテーマでもありました。例えば、2004年公開のディズニー&ピクサー映画『Mr.インクレディブル(The Incredibles)』において、主人公のヒーロー一家であるインクレディブルファミリーのスーツを考案するデザイナーのエドナは、マントについて、マントが原因でヒーロー達の死亡事故が発生していることや、彼女のデザインセンスの理由から「マントは無し!」と力説していました。ヒーローにマントが必要であるという認識は、現代のアメリカにおいては必ずしも普遍的ではないようです。

【日本より厳しい?!】顔を攻撃したら即NG!悪役も汚い言葉は使用不可!アメリカの子ども番組事情とは?

先に述べたウルトラマンシリーズをはじめ、アメリカにはこれまでたくさんの日本のスーパーヒーロー番組が輸入されました。しかし、その多くは僅かな放送期間で終了しており、長期シリーズとして展開した作品はごく僅かでした。

海外メタルヒーローシリーズDVD(筆者撮影)
海外メタルヒーローシリーズDVD(筆者撮影)

そんな状況の中でも「アメリカの歴史上、もっとも成功した子ども番組」と呼称され、現在まで約30年に渡り愛され続けている日本の特撮ヒーロー番組がありました。それが、ウルトラマンや仮面ライダーと並ぶ国民的ヒーローとして愛されてきたスーパー戦隊シリーズでした。

スーパー戦隊シリーズが米国へと進出したのは1993年のこと。シリーズ第16作『恐竜戦隊ジュウレンジャー(1992)』をベースに、“Mighty Morphin Power Rangers(マイティ・モーフィン・パワーレンジャー)”と題して、ロサンゼルスやニューヨークの大都市圏にてレギュラー番組として放送されました。

パワーレンジャーこと恐竜戦隊ジュウレンジャー(筆者撮影)
パワーレンジャーこと恐竜戦隊ジュウレンジャー(筆者撮影)

番組内容は、スーパー戦隊シリーズ第16作『恐竜戦隊ジュウレンジャー』をベースに、日本人の俳優さん達の出演シーンを現地俳優さん達の出演シーンに差し替え、着ぐるみやミニチュアを使った戦闘シーンは日本で撮影した映像を流用する形で、約30分の番組として編成したものでした。

本作は北米で放送されると爆発的なヒットを巻き起こし、関連玩具は生産が追いつかない状態となったほか、品薄となった玩具の取り合いで客同士の喧嘩が起こり、警察が出動する騒動にまで発展したのだとか。

本作の玩具を販売していたのが、皆様ご存知の玩具大手メーカーであるバンダイ。このパワーレンジャーブームにより1994年のアメリカ玩具市場は164億ドルの過去最大のヒットを記録しました。この爆発的ヒットにより、アメリカではほんの小さな会社にすぎなかったバンダイが、世界最大といわれる玩具会社の一員となるに至りました。

バンダイ・アメリカ「海賊戦隊ゴーカイジャー」フィギュア(筆者撮影)
バンダイ・アメリカ「海賊戦隊ゴーカイジャー」フィギュア(筆者撮影)

しかしながら、このパワーレンジャーの成功の裏には、日本とアメリカ両国の製作サイドによる綿密なやり取りがあったほか、時には文化の違いが壁となって悩みの種となったことが多々あったようです。

その中のひとつが、戦闘シーンの問題でした。日本で放送されるテレビ番組も、番組の内容や表現に関する規則である「放送コード」の遵守が求められていますが、『パワーレンジャー』放送当時のアメリカの子ども番組に対する放送コードは日本以上に厳しいものでした。

それは、アメリカのテレビは暴力描写に非常に敏感だったのです。

例えば、日本ではヒーローと敵が殴り合ったり体と体がぶつかり合った際の効果音は「バシッ」といったような肉弾相打つ擬音であるのに対し、アメリカでは「あまりにもリアルすぎて暴力的な想像をかきたてる」ということから問題視されたそうです。そこで、肉体と肉体がぶつかり合う音は「カキーン」という金属音がぶつかり合う音に差し替えられました。

他にも、頭を殴ったり蹴る描写等、日本ではお馴染みなアクション描写はアメリカではNG。さらには顔面への攻撃ができない、飛びかかってもいけない、キックやパンチもほとんどがNGといった具合に、制約も極めて多い状況でした。

「ここまで制約が多くて、ヒーローは世を乱す敵と戦えるのか?」とさえ思いましたが・・・

そんな多き制約の中、日本の製作者が実践したのは「戦闘描写の中和」でした。先述したように、パワーレンジャーはジュウレンジャーの映像が流用されています。そこで、殴るギリギリのところまではジュウレンジャーの映像を使い、そこからパンチをよけるところはアメリカで新たに撮影した映像を使うといった取り組みが行なわれ、これによって戦闘描写を放送できる形に編集していたのです。

『マイティ・モーフィン・パワーレンジャー』終了後、人気を博したパワーレンジャーはシリーズ化され、約30年に渡り継続されることとなります。その間に製作された各作品をDVDで見直してみると、アメリカの放送コードに準じた工夫がたくさん発見できるのです。

パワーレンジャーシリーズDVD(筆者撮影)
パワーレンジャーシリーズDVD(筆者撮影)

例えば、敵が銃を市街地で発射する音声は「バン!」ではなく、「チュン!」(スターウォーズで敵の軍団が使っているレーザー銃のような音声)という音に差し替えられていたり、敵の女幹部がヒーローに倒されることなく改心する描写がシリーズを通じて多かったこと。さらに、敵が発する言葉においても配慮が成されており、敵側がヒーローに「殺す」ことを示唆するセリフは日本では定番ですが、パワーレンジャーでは、敵側がヒーローに対して「Destroy them!(奴らを破壊しろ!)」。つまり、英語で殺す意味の「Kill」ではなく、壊すや破壊する意味を含めた「Destroy」が用いられ、言葉の表現がマイルドに整合されていました。

スーパー戦隊が異国でもヒーローであり続けるために、こうした作り手の方々による細かな配慮や工夫が、今日までの人気を堅持してきたのだと思うと脱帽です。

騎士竜戦隊リュウソウジャー(筆者撮影)
騎士竜戦隊リュウソウジャー(筆者撮影)

パワーレンジャーはその後、現在まで100カ国以上の国々で放送されてきました。勿論、現在もアメリカではパワーレンジャーの製作は続けられています。米国放送開始30年目に当たる今年2023年には『騎士竜戦隊リュウソウジャー(2019)』をモチーフとした最新作“Power Rangers Cosmic Fury”のNetflixでの配信がスタートする他、シリーズ第1作「マイティモーフィン」当時の出演者を集めた新作の発表など、その人気は今日も健在です。

いかがでしたでしょうか?

私もアメリカ滞在時やハワイでのロングステイ時、観光地や地元のスーパー等の幅広い場所で、日本のヒーロー達に思わぬ形で出会い、驚くことが多々あります。

しかし、こうしたヒーロー達のアメリカ進出の背景には、私達が知らない日本の製作者達の苦労や創意工夫があってこそだと考えると、本当に頭が下がる思いです。

最後までご覧頂きまして、誠にありがとうございました。

ハワイ・ヒロハッティニミッツ店(現在は閉店、2014年撮影)
ハワイ・ヒロハッティニミッツ店(現在は閉店、2014年撮影)

(参考文献)
・青柳宇井郎・赤星政尚、【懐かしのヒーロー】ウルトラマン 99の謎、株式会社二見書房
・澤村信、エンターテインメントアーカイブ ウルトラマンG ウルトラマンパワード、株式会社ネコ・パブリッシング
・鈴木武幸、夢(スーパーヒーロー)を追い続ける男、株式会社講談社
・大下英治、仮面ライダーから牙狼へ 渡邊亮徳・日本のキャラクタービジネスを築き上げた男、株式会社竹書房
・大場吾郎、テレビ番組海外展開60年史 文化交流とコンテンツビジネスの狭間で、人文書院
・長澤博文・今井智司(ノトーリアス)、「スーパー戦隊の常識 ド派手に行くぜ!レジェンド戦隊篇」、双葉社
・尾上克郎・三池敏夫、「平成25年度メディア芸術情報拠点・コンソーシアム構築事業 日本特撮の関する調査」、森ビル株式会社

この記事を読んで頂き、「海外での日本特撮やアニメ作品の展開に興味を持った」という皆様、私の過去の記事やTwitterにて、海外現地での様子や商品展開についてもお話をさせて頂いております。宜しければ、ご覧ください。

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博士(文学)/PhD(literature)

博士(文学)。日本の「特撮(特殊撮影)」作品を誘致資源とした観光「特撮ツーリズム」を提唱し、これまで包括的な研究を実施。国内の各学術学会や、海外を拠点とした国際会議へも精力的に参加。200を超える国内外の特撮・アニメ催事に参加してきた経験を生かし、国内学術会議や国際会議にて日本の特撮・アニメ作品を通じた観光研究を多数発表、数多くの賞を受賞する。国際会議の事務局メンバーのほか、講演、執筆、観光ツアーの企画等、多岐に渡り活動中。東海大学総合社会科学研究所・特任助教。

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