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【なぜ日本の特撮ヒーローは世界的に大ヒットした?】日米グループヒーローが国際的に愛された背景とは?

二重作昌満博士(文学)/PhD(literature)

皆様、こんにちは!

文学博士の二重作昌満(ふたえさく まさみつ)と申します。

特撮を活用した観光「特撮ツーリズム」の博士論文を執筆し、大学より「博士号(文学)」を授与された後、国内の学術学会や国際会議にて日々活動をさせて頂いております。

少しずつ汗ばむ日が増えて参りましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか?

さて、本日のテーマは「グループヒーロー」です。

「グループヒーローってなに?」という方のために少しお話しをすると

簡単にいえば、複数のヒーローで構成されるスーパーヒーローチームのことです。

ひとくちにスーパーヒーローといっても様々ですが、

例えば、日本では毎週日曜日の朝に放送されている「スーパー戦隊シリーズ」・・・。

シリーズ第27作『電磁戦隊メガレンジャー(1997)』(筆者撮影)
シリーズ第27作『電磁戦隊メガレンジャー(1997)』(筆者撮影)

シリーズ第1作『秘密戦隊ゴレンジャー(1975)』(東映制作)の放送開始から、現在放送中の最新作『王様戦隊キングオージャー(2023)』まで、親子3世代にわたり支持されている当シリーズ。主に5人で編成され、色とりどりのコスチュームを身に纏い、それぞれの個性を生かしながら悪と戦うヒーローチームの活躍を描いたスーパー戦隊シリーズも、約50年に渡る歴史を有しています。

一方で、グループヒーローは日本だけではありません。

アメリカでは、アイアンマンやキャプテン・アメリカ、スパイダーマンといった様々なヒーロー達で混成された「アベンジャーズ」(マーベル作品)が人気を博しています。

アベンジャーズ(筆者撮影)
アベンジャーズ(筆者撮影)

上記で紹介した各ヒーローチームは、あくまでほんの一例に過ぎませんが、日本と米国はこれまで数多くの「グループヒーロー」の活躍を描いたテレビ番組や映画を発信し続けてきました。

スーパー戦隊シリーズもアベンジャーズも、現在まで長い歴史を有してきたほか、その活躍はワールドワイドに及び、国際的認知を獲得し続けています。

しかしながらスーパー戦隊シリーズもアベンジャーズも、その構想には幾多もの困難があり、はじめから順風満帆に構想されてきたわけではありません。

そこで今回は、スーパー戦隊シリーズとアベンジャーズ、日米両ヒーローチームに焦点を当て、各グループヒーローの構想から国際的な成功に至るまでの道のりについて、お話できたらと思います。

※本記事は「私、ヒーローものにくわしくないわ」という皆様にも気軽に読んで頂けますよう、概要的にお話をして参ります。お好きなものを片手に、ゆっくり本記事をお楽しみ頂ければと思います。

【当初は5人の仮面ライダーだった?】初代スーパー戦隊、秘密戦隊ゴレンジャー爆誕の背景とは?

まずはじめに、日本が生んたスーパーヒーローチームである「スーパー戦隊シリーズ」についてお話しをしたいと思います。

突然ですが、皆様は「スーパー戦隊シリーズ」をご覧になったことはありますか?

本記事をご覧になっている皆様の中には、「子どもと一緒に観ているよ」という方や「子どもの頃に観ていたよ」という方もいらっしゃるかもしれません。

スーパー戦隊シリーズとは、カラフルなコスチュームを着た5人のヒーロー達がチームとなって悪の組織と戦う内容で、漫画家・石ノ森章太郎先生と八手三郎先生原作による東映制作の特撮ヒーロー番組のことです。

シリーズ第27作『爆竜戦隊アバレンジャー(2003)』(筆者撮影)
シリーズ第27作『爆竜戦隊アバレンジャー(2003)』(筆者撮影)

シリーズ第40作『動物戦隊ジュウオウジャー(2016)』(筆者撮影)
シリーズ第40作『動物戦隊ジュウオウジャー(2016)』(筆者撮影)

シリーズ第1作『秘密戦隊ゴレンジャー』が1975年に放送が開始されて以降、『バトルフィーバーJ(1979)』、『超力戦隊オーレンジャー(1995)』、『爆竜戦隊アバレンジャー(2003)』、『海賊戦隊ゴーカイジャー(2011)』、『動物戦隊ジュウオウジャー(2016)』等々、シリーズは続いて行き、最新作『王様戦隊キングオージャー(2023)』まで全47作品がこれまで制作されてきました。

このように、約50年に渡る歴史を持ち、今や親子3世代に渡って愛されているスーパー戦隊シリーズですが、実は当シリーズを始動させるにあたり構想されたのは、5人の仮面ライダーが敵と戦う内容でした。

5人の仮面ライダー?(写真は仮面ライダー2号 筆者撮影)
5人の仮面ライダー?(写真は仮面ライダー2号 筆者撮影)

つまり、同じく東映制作の特撮ヒーロー番組であった仮面ライダーシリーズの一部として、スーパー戦隊シリーズの原案は構想されていたのです。

この5人の仮面ライダーを活躍させるアイディアを提唱したのは、東映のプロデューサーである渡邊亮徳氏。渡邊氏は同じく東映プロデューサーである平山亨氏を呼び、現在放送中の仮面ライダーシリーズの次回作を5人編成にすることを提案します(当時は『仮面ライダーアマゾン(1974)』が放送中)。

「アメリカのテレビ映画『スパイ大作戦』を、見てみろ。主人公はひとりじゃなく、複数の主人公がそれぞれ自分の専門分野をもって活躍するだろう。今度の『仮面ライダー』も、そうやってみろ。ただし、ヒーローの数は、一、三、五、七と、昔から奇数に決まってるんだ。七人も出すとテレビでは多すぎるし、かといって三人じゃボリュームに欠ける。五人がちょうど良いな。」(渡邊氏)

ところが、この5人の仮面ライダーを描くアイディアは残念ながら頓挫してしまいました。これには、番組放送局(毎日放送)の反対があってのことでした。

「複数のヒーローなんて、ヒーローじゃない。ひとりしかいないから、ヒーローなんだ」(毎日放送 編成局映画部長 庄野至氏)

結局、5人の仮面ライダーの構想は頓挫し、『仮面ライダーアマゾン』の次回作は、従来通り単独の仮面ライダーが活躍する『仮面ライダーストロンガー(1975)』に決定します。

『仮面ライダーストロンガー(1975)』より仮面ライダーストロンガーとその相棒、電波人間タックル(彼女は番組後半に死亡)(筆者撮影)
『仮面ライダーストロンガー(1975)』より仮面ライダーストロンガーとその相棒、電波人間タックル(彼女は番組後半に死亡)(筆者撮影)

しかしながら、渡邊氏は5人のヒーローの構想を諦めませんでした。

「日本のテレビの番組は、今、ほとんどがカラーだ。(中略)色を最大限に生かして、目いっぱいハデハデにしろ」(渡邊氏)

この考えのもと、渡邊氏は『仮面ライダー』の原作者である石ノ森章太郎氏にキャラクターのデザインを依頼しました。今回は複数のヒーローが登場するので、デザインはひと目で分かるシンプルなものでないといけないことを踏まえ、石ノ森氏はよけいなディテールをそぎ落とし、極めてシンプルなヒーローをデザインしました。

デザインがシンプルになった分、色で個性を強調しなければならず、赤、青、黄、桃、緑と色で配分することで、小さな子どもでも見分けが付くようにしました。

「ヒーローの数が五人もいると、常に五人出していては印象が薄くなる。(中略)最後の決戦のときだけ五人揃うようにしましょう。このほうがそれぞれの個性が発揮でき、オールスター的興味が倍加できます。」(平山氏)

この平山氏のアイディアに対して、渡邊氏も成功を確信したそうです。

こうして5人のヒーローが悪と戦うという物語の方向性が決まっていく中、難航したのがタイトルでした。そんな中、タイトルに「レンジャー」を付けることは決定したものの、このレンジャーの上になにをつけるのかが問題だったのです。

「5人(レンジャー)の人をとって、5レンジャーか」

結果、5レンジャーの「5」だけ表記を変え、「ゴレンジャー」というタイトルに決定しました。

「5人揃って、ゴレンジャー!」秘密戦隊ゴレンジャー(筆者撮影)
「5人揃って、ゴレンジャー!」秘密戦隊ゴレンジャー(筆者撮影)

ゴレンジャー各メンバーの呼称も、「色+レンジャー」という組み合わせで名称が決定し、女性メンバー(桃)を加えた男女混成のヒーローチームとして構想されました。つまり、「赤+レンジャー=アカレンジャー」、「青+レンジャー=アオレンジャー」といった具合に、キ(黄)レンジャー、モモ(桃)レンジャー、ミド(緑)レンジャーの呼称が決定しました。

上記の背景から誕生した『秘密戦隊ゴレンジャー』は、1975年4月5日に放送を開始され、25%という高視聴率を獲得する人気番組として成長しました。

このゴレンジャー人気は、メイン視聴者である子ども達だけでなく女子大生にも浸透し、東映の吉川プロデューサーのもとに3人の女子大生が訪れ、5冊以上の大学ノートに『ゴレンジャー』に対する意見や感想をびっしり書いていたそうです。(実際、子ども番組で20%を超える視聴率を獲得するには、男児だけの人気では不可能で、女児や女子大生まで巻き込むことが重要なのだとか。)

【スーパー戦隊、アメリカへ進出!!】異国で直面した文化の壁と問題点とは?

上述した『秘密戦隊ゴレンジャー(1975)』はたちまち人気番組となり、その成功を受けて東映は次回作の制作に着手するようになります。その結果、シリーズ第2作『ジャッカー電撃隊(1977)』、『バトルフィーバーJ(1979)』、『電子戦隊デンジマン(1980)』といった具合にシリーズ化の一途を辿ることになり、その人気はアメリカを筆頭とする海外へも波及するようになりました。

英語圏であるアメリカでの放送タイトルは「パワーレンジャー」。

いわば、アメリカ版のスーパー戦隊でした。

マイティ・モーフィン・パワーレンジャー(恐竜戦隊ジュウレンジャー 筆者撮影)
マイティ・モーフィン・パワーレンジャー(恐竜戦隊ジュウレンジャー 筆者撮影)

パワーレンジャーが米国で放送を開始したのは1993年のこと。番組のタイトルは“Mighty Morphin Power Rangers(マイティ・モーフィン・パワーレンジャー)”と題し、ロサンゼルスやニューヨークの大都市圏で月曜日から金曜日にかけて午後3時からレギュラー番組として放送されました。(日本のアニメや特撮作品は、毎週1話ずつ新エピソードが放送される環境ですが、アメリカではチャンネル数も多い上、放送環境やペースも異なります)

番組内容は、スーパー戦隊シリーズ第16作「恐竜戦隊ジュウレンジャー」をベースに、日本人の俳優さん達の出演シーンを現地俳優さん達の出演シーンに差し替え、着ぐるみやミニチュアを使った戦闘シーンは日本で撮影した映像を流用する形で、約30分の番組として編成したものでした。

当内容で放送された本作は、アメリカで爆発的なヒットを巻き起こします。ロサンゼルス地区のテレビ局では最高9.1%の視聴率をたたき出した上、遊興施設のユニバーサルスタジオで開催された着ぐるみショーを観るために集まった人々の乗用車が40kmもの大渋滞をつくる事態も発生する等、あまりの人気にクリントン大統領夫妻は本作の出演俳優をホワイトハウスへ招待したほどでした。

アメリカで販売されたパワーレンジャーのDVD(筆者撮影)
アメリカで販売されたパワーレンジャーのDVD(筆者撮影)

このようにアメリカでスーパー戦隊シリーズは爆発的なヒットこそ巻き起こしましたが、この大ヒットの裏には、アメリカという異国の地に日本の特撮ヒーロー番組を持ち込む上での、両国間の考え方の違い等、いくつかの困難も発生していました。

その中でも特に大きな難点だったのは、「なぜヒーローが5人もいるんだ」という根本的なものでした。

ヒーロー同士協力することはあれど、スーパーマンやスパイダーマンも基本はひとりで戦う。ヒーロー達がグループとなって毎週戦うテレビ番組への理解が困難だったのだとか。

この考え方の背景には、アメリカがキリスト教国家であるということが挙げられます。真の神であるキリストは唯一無二。すなわち、「神はひとり」という国の中で、日本のグループヒーローを売り込む状況であったわけです。

そこでパワーレンジャーの制作にあたり、当時の東映プロデューサーが力説したのは「5人で力を合わせて、お互いの欠点を補完し合いながら戦う」旨を説明し、理解を得ることが出来たそうです。

「1対5で怪人と戦うのは卑怯ではないか?」

こうした1人の敵を相手に5人掛かりで戦うという疑問点ですが、日本でも論争はありました。

『多勢で1人を囲むなんぞ、いじめの象徴、悪の権化、愚の骨頂。それは「正義の味方は1人で悪を倒すものである」(中略)いまのお父さんが子どもだったころから、「多勢に無勢」は存在していたのです。実際、スーパー戦隊のいくつかの作品中でも「こっちが1人なのにお前ら5人とはズルいぞ!」と文句を言う怪人は存在していました。』(出典:『スーパー戦隊の常識 ド派手に行くぜ!レジェンド戦隊篇』)

こうした敵側にも同情する風潮ですが、アメリカでは意外な形で発揮されていました。私もハワイでよくロングステイをしていた他、アメリカ本土にも度々出入りをしていたので、現地のパワーレンジャー人気を肌で感じる機会が多かったのですが、特にアメリカで感じたことは「悪役も人気がある」という点でした。

例えば、欧米では「STAR WARS」を筆頭に、敵側のフィギュアも多数商品化する展開が見られますが、日本では敵側はあまり商品化されません。パワーレンジャーのグッズを探しにアラモアナショッピングセンターやウォルマート等の大型商業施設やスーパーへ向かうと、日本では売れない悪役のフィギュアもすぐになくなる、会計前のフィギュアをカートに入れて店内を歩いていたら「その人形はどこで売っていたの?」と尋ねられ、答えるとそのエリアに向かってお母様・お兄様達が走って行く・・という光景に出会すこともしばしばでした。

”Power Rangers Dino Charge(2015)”より悪役達(筆者撮影)
”Power Rangers Dino Charge(2015)”より悪役達(筆者撮影)

こうしたアメリカでの怪人人気の基板となったのは、スーパー戦隊シリーズに登場した怪人ひとりひとりが持っていた愛くるしい個性にも一因があると思います。

このようにスーパー戦隊の怪人達が個性的かつ愛おしくも感じられた背景には、同じく東映制作の特撮ヒーロー番組である『仮面ライダー(1971)』シリーズに登場した怪人達との差別化にありました。

『仮面ライダー(1971)』では、主人公の仮面ライダーと、世界征服を企む悪の秘密結社・ショッカーとの戦いが描かれ、ショッカーが送り込む怪人達は、任務の遂行のために邪魔な一般人を容赦なく殺害する上、人を溶かしたり骨にするといった非道極まりない恐怖と残虐性が強調されたのに対し、ゴレンジャーの怪人達は悪党ではあるもののどこか憎めないコミカルさが強調されました。

(作戦とはいえ)キレンジャーにカレーをご馳走する青銅仮面(第3話)、機関車である故にオーバーヒートを起こし、フルーツ・パーラーに立ち寄って水を補給してもらった機関車仮面(第46話)、「ホームラン王」かつ部下思いの野球仮面(第53話)、ゴレンジャーから提供された鶏ガラスープを飲み干した結果爆死したアバラ仮面(第62話)等、本作に登場する怪人達は印象的な見た目かつ、どこか親近感さえ感じ取れる存在でした。

『ゴレンジャー』の吉川進プロデューサーによれば、(ゴレンジャーの)敵のデザインを石ノ森先生にお願いしたところ、「怪人は子どもが日常で見かけるようなものが良いですよ」と仰り、電話仮面で電話機、野球仮面でボール等、身の回りにあるものをモチーフにしてデザインされたそうです。

こうした子ども達にわかりやすいモチーフで怪人をデザインする手法は、ゴレンジャーの後のスーパー戦隊シリーズにも継承されていくことになったのです。

このような子ども達にも共有できる「わかりやすさ」を基盤とした創意工夫が、国内外のスーパー戦隊シリーズの人気を支えてきたのかもしれません。

補足)スーパー戦隊シリーズに登場する怪人達のモチーフは、動植物や乗り物、日用品、有名神話に出てくる怪物等、実に様々です。例えば、「服装」をモチーフにした怪人達も当シリーズにて何度も登場しており、一般人に突然廻しをつけて現代の相撲人気を盛り上げようとしたスモウボーマ(『高速戦隊ターボレンジャー(1989)』)や、海賊やスナイパーといった服装を人々に着用させ、服装通りの性格に変えたファッションジゲン(『鳥人戦隊ジェットマン(1991)』)、戦隊の面々を老若男女問わずビキニ姿に変えた上、基地の女性をビーナスのような石像にしてしまったハナビキニキビーナス等(『爆竜戦隊アバレンジャー(2003)』)、服装モチーフの怪人達はその能力こそ極めて奇抜なものでしたが、こういった「どんな怪人が毎週出てきてどんな事件を起こすのか」といった点も、スーパー戦隊シリーズに登場する怪人達の魅力のひとつでした。歴代スーパー戦隊シリーズは東映特撮ファンクラブ(TTFC)にて視聴できますので(外部リンク)、宜しければチェックしてみて下さいね♪

【アイアンマンを蘇らせたのは子ども達?】不遇のB級ヒーローが世界的スーパーヒーローとして認知されるまで

アメリカのスーパーやおもちゃ屋さんでお買い物をしていると、必ずといって良い程、日用品や玩具、食料品といった関連商品が販売されているのが、マーベル・コミックス制作の大作映画『アベンジャーズ(The Avengers)』。

アイアンマン(鋼鉄のヒーロー)やキャプテン・アメリカ(愛国の英雄)、ハルク(緑の怪物)にソー(神話の雷神)といった、見た目も能力もバラバラのヒーロー達が一堂に会し、巨悪に立ち向かっていくヒーローチームとして展開され、2012年公開の『アベンジャーズ(Marvel's The Avengers)』以降、ヒーロー達が大集結するお祭り映画シリーズとして続編が制作され続けており、彼らの物語は2019年公開の『アベンジャーズ エンドゲーム(Avengers: Endgame)』にて一区切りを迎えましたが、2025年には新作『Avengers: The Kang Dynasty(英題)』が公開予定である等、現在も最新作が制作され続けています。

そんなアベンジャーズの中でも、キャプテン・アメリカと並び、重鎮を務めたのがアイアンマン。巨大複合企業『スターク・インダストリーズ』のCEO兼、天才発明家でもあるトニー・スタークがパワードスーツを装着したスーパーヒーローであり、その強さとは裏腹に、死への恐怖から酒に溺れたり、素直になれず他のヒーローと衝突してしまうようなメンタル面での弱さも兼ね備えた人物でもありました。

アイアンマンことトニー・スターク(筆者撮影)
アイアンマンことトニー・スターク(筆者撮影)

彼は『アベンジャーズ エンドゲーム(2019)』において、アベンジャーズ最大の敵であるサノスを自らの命と引き換えに滅ぼし、死亡した彼の志はトニーを慕っていたスパイダーマン(ピーター・パーカー)に受け継がれるという形で、現在に至るアベンジャーズの物語が展開されています。

このように、アイアンマンは『アベンジャーズ』シリーズにおいて極めて重要な役割を担いながら、死という衝撃の結末を迎えたことで、観客達に強烈な印象を残しましたが・・・・

実は、このアイアンマンが上述してきた『アベンジャーズ』に参加することになった背景には、子ども達の声が反映されたのをご存知でしょうか?

『アベンジャーズ(2012)』シリーズはもともと、『アイアンマン(2008)』、『インクレディブル・ハルク(2008)』、『マイティ・ソー(2011)』『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー(2011)』と、マーベル・コミックス社が制作したスーパーヒーロー映画に登場する各ヒーロー達が一同に会する映画ですが、本作に至るまでの映画第1作として公開されたのがアイアンマンでした。

マーベルがアイアンマンを第1作に選んだ背景として、子ども達の存在がありました。子ども達を集めて、どのキャラクターの玩具が一番好きか、マーベルはアンケートをとっていたのです。ヒーロー達のイラストを見せて、彼らの能力や使う武器を知らせて、どのヒーローのグッズで遊びたいか尋ねていたのです。

その結果、「アイアンマンで遊びたい」、という声が圧倒的に多かったのだとか。

実は、アイアンマン自体はこれまで不遇な歴史を歩んでおり、マーベルが保有していた彼の権利は様々な会社に売り渡され、映画制作はマーベルが権利を買い戻すまでの約20年間に渡り、なんの進展もない状態だったのです。

「アイアンマンが飛ぶような映画は作りたくない!ばかげてる!鉄が空を飛ぶはずがない!」(ニュー・ライン・シネマ 当時の最高経営責任者)

このような大人の反対意見に反し、子ども達の声を反映させて『アイアンマン(2008)』を公開した結果、本作は大ヒットを記録し、後に公開されたヒーロー映画にバトンを渡しながら『アベンジャーズ(2012)』の公開へと繋げることが出来たのです。

その後、彼が歩んできた道のりは上述したとおりですが、大人の一方的な固定観念ではなく、スーパーヒーローを慕う子ども達の声を反映させた結果、アイアンマンは圧倒的な国際的認知度を誇るスーパーヒーローとして現在に至ることになりました。

いかがでしたでしょうか?

ここまで述べてきたスーパー戦隊シリーズ(パワーレンジャー)や、アベンジャーズが長く愛されるグループヒーローとして持続してきた背景には、やはり制作者がヒーローを応援する子ども達の目線を考慮してきたことが挙げられます。

子どものヒーローが大好きな気持ち、応援する気持ちは、ヒーロー達の運命さえ左右してしまう程の大きな力を秘めていたのです。

最後までご覧頂きまして、誠にありがとうございました。

(参考文献)
・鈴木武幸、「夢(スーパーヒーロー)を追い続ける男」、株式会社講談社
・大下英治、「仮面ライダーから牙狼へ 渡邊亮徳・日本のキャラクタービジネスを築き上げた男」、株式会社竹書房
・大場吾郎、「テレビ番組海外展開60年史 文化交流とコンテンツビジネスの狭間で」、人文書院
・長澤博文・今井智司(ノトーリアス)、「スーパー戦隊の常識 ド派手に行くぜ!レジェンド戦隊篇」、双葉社
・尾上克郎・三池敏夫、「平成25年度メディア芸術情報拠点・コンソーシアム構築事業 日本特撮の関する調査」、森ビル株式会社
・奥津英敏・小出善哉(STUDIO HARD Deluxe)、「スーパー戦隊画報第2巻」、竹書房
・菅家洋也、「講談社シリーズMOOK スーパー戦隊 Official Mook 20世紀 1975 秘密戦隊ゴレンジャー」、講談社 
・チャーリー・ウェッツル&ステファニー・ウェッツル、「MARVEL 倒産から逆転 No.1となった映画会社の知られざる秘密」、株式会社すばる舎

この記事をご覧頂き、「海外での日本特撮やアニメ作品の展開に興味を持った」という皆様、私の過去の記事やTwitterにて、海外現地での様子や商品展開についてもお話をさせて頂いております。宜しければ、ご覧ください。

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博士(文学)/PhD(literature)

博士(文学)。日本の「特撮(特殊撮影)」作品を誘致資源とした観光「特撮ツーリズム」を提唱し、これまで包括的な研究を実施。国内の各学術学会や、海外を拠点とした国際会議へも精力的に参加。200を超える国内外の特撮・アニメ催事に参加してきた経験を生かし、国内学術会議や国際会議にて日本の特撮・アニメ作品を通じた観光研究を多数発表、数多くの賞を受賞する。国際会議の事務局メンバーのほか、講演、執筆、観光ツアーの企画等、多岐に渡り活動中。東海大学総合社会科学研究所・特任助教。

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